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第十八話:一難去ってまた一難。

15一難去ってまた一難。

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鴉天狗の一羽が威勢良く声を張り上げる。

どうやら先の戦いで今鏡も春秋も力を使い果たし弱っていると判断したようだ。

今なら勝てる、そう思ったに違いない。


「ハッ!!かごの中の鳥となったならば貴様などに用は無い!!消え失せろ!!」


それを皮切りに鴉天狗達から一斉攻撃が始まった。

強風が今鏡目掛けてうなビる。


「防壁」


春秋が小さく呟く。

すると向かって来た風がスッと今鏡いまかがみに触れる事なく消失した。

春秋は自らの指を口にくわえてっ切ると血のしたたる指先を今鏡へと向ける。


「彼らを従わせてくれると嬉しいなぁ」


困り顔で笑って見せる春秋に、今鏡は盛大な溜め息を吐き出した。


「承知した」


今鏡は春秋の手を取ると、その血の流れた指先に口付けて血をすすった。

体の内側から力がみなぎるのを感じる。

たぎるように熱い。

まばゆい光に包まれて、姿を現した今鏡は子供の姿から一変、大人びた姿へと変貌をとげた。


「フン。これで少しは暴れられそうだ」

「あっはは!少しだなんてえらくご謙遜を」

「やかましい。……おい。どうした?」


先程まで大笑いしていた春秋の額に脂汗が滲む。

その顔色はとてもじゃないが良いとは言えない。

血の気が引いたように真っ青だ。


「清明様!」


すかさず朱雀が春秋を抱きとめた。


「僕は、春秋だよ。朱雀」


腕の中で苦痛に眉根を寄せながらも、春秋は笑って見せた。

朱雀は静かに目をせる。


「……はい。春秋、様。……どうやら清明様の残した力がわずかばかりになっているようですね」

「……ええ。ただの生まれ変わりですからね。でも、まぁ。眠れば回復しますよ」


心配がる朱雀を落ち着かせるように、春秋は言葉をつむいだ。


「なるほどのう。無尽蔵と言うわけでは無いのだな。……おい、先刻ワシを攻撃した事、後悔しても遅いぞ?」


今鏡は静かに鴉天狗の群れへと視線を向けた。

スッと睨みを利かせれば、ゾクリと鴉天狗達の背中に鳥肌が立つ。

慌てた様子で鴉天狗達はその場にひれした。

子供の姿だったから勝てそうに思えていたものが、急に成人の姿になれば勝機は低いとそう直様察したのだろう。


「申し訳……ございませんでした!!!」


声を大にして叫び、謝罪をする鴉天狗達を冷ややかな目で見下ろす大天狗の今鏡。

あからさまな手のひら返しに今鏡は少々うんざりとしていた。


「……次は無いと思え。良いな?」

「ハッ!!!」


彼らの勢いのある返事を聞いて、チラリと視線だけを春秋に向ける。

どうだ?とでも言いたげだ。

春秋はパチパチと拍手をして賞賛しょうさんした。


「さすが今鏡だよ。凄いなぁ君って」

「茶化すで無いわ。お主こそ、主となったからにはその無鉄砲、なんとかするのだな」


自分の力や体力を考えもせずにギリギリまで使用し、疲労困憊している春秋を少しばかり頼りなく思う。


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