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第十八話:一難去ってまた一難。

14一難去ってまた一難。

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「……はぁ。負けは負けか。あい分かった。さすがに十二天将じゅうにてんしょうまで出て来よったら勝ち目もあるまい。好きにするといい」


今鏡いまかがみはその手を取って強く握った。

春秋も笑顔でその手を握り返す。


「交渉成立、だね。ありがとう今鏡。これからよろしく頼むよ」


そう言うとふところから御札おふだを取り出して筆ペンを手渡す。

今鏡は筆ペンをどこか不思議そうに眺め、蓋を外しした。


「……筆、じゃと?……して、すずりはどうした?」

「そのまま文字が書けるんだ。ほら書いてみてよ」


うながされるままに筆ペンで文字を書き記していく。

今鏡は目を見張った。

今鏡が名を記している間に、春秋はちらりと朱雀すざくを見る。


「朱雀と言ったね。僕は萩原春秋。僕の記憶だと君は火の鳥の姿をしていると思ってたけど?」

「……ああ」


言われるがままに姿を鳥へと変える。

その姿は春秋の記憶と寸分違すんぶんたがわず同じだった。


「貴方は……私の人の姿が記憶に無いんだな」


安倍晴明と暮らしていた時は本来の姿では仕事がこなせず、人の姿で行っていた。

だからか春秋の記憶がとても不思議だった。


「僕の記憶は曖昧でね。全部を綺麗に見ることが出来ないんだよ。すまないね」

「……そう、なのか……」


それはどこかとても残念に感じた。

同じ霊力で雰囲気を持っているだけの別人。

そうは分かっていても、目の前の彼には自分を従えるに相応しい力を強く感じていた。


「書いたぞ」


ひらひらと御札を揺らして主張する今鏡。


「ああ、ありがとう。じゃあ解放しよう」


春秋は今鏡から御札と筆ペンを受け取ると、今鏡に取り巻くツルから解放した。

バサバサと複数の翼の羽ばたかせる音が聞こえ始める。

鴉天狗の群れがこちらへと猛スピードで羽ばたいて来ていた。


「おい!春秋テメェ!!俺様までぶっ飛ばしたな!?」

「私まで飛ばすなんて酷いわぁ!ビックリしたんだから!」

「あ。……ごめんよー。大丈夫だった?」


眉をはの字にして白狼と鞍馬くらまに両手を合わせる春秋。


「春秋、貴様!!」

「もう、容赦はせん!!」


鴉天狗達が再び戦闘態勢に入る。


「待つが良い。ワシはこの者の傘下となった。この者に手を出すならば貴様らは敵とみなす」

「な……ッ!!」


ギラついた目付きで春秋を睨み、今にも攻撃をしかけそうな鴉天狗達に対し、春秋をかばうように立ちそう宣言したのは大天狗の今鏡だった。

鴉天狗達はどこか納得のいかない顔をして、それぞれに顔を見合わせざわざわとしている。

そんな中、春秋は白狼にえりの合わせ目を掴まれて、ガミガミと文句を並べ立てられていた。

そんな白狼を引きがそうとする鞍馬。

春秋は困ったような笑みを浮かべつつもチラリと鴉天狗達の表情をうかがい見る。

そして呆れたように溜め息を吐いた。


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