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第十八話:一難去ってまた一難。
13一難去ってまた一難。
しおりを挟む「ちょっとぉ!春秋様を打つんじゃないわよぉ!!」
鴉天狗が木葉天狗に食ってかかる。
そんな二羽を見てカラカラと楽しげに笑う青年。
込み上げてくる懐かしさに朱雀は青年の傍に寄ると空中で跪くようなポーズを取った。
「……安倍晴明様。お帰りなさいませ」
ぽかんと青年は口を開けて朱雀をマジマジと見つめる。
「誰?君」
「……やはり覚えてはいないか」
朱雀はどこか物悲しげにそう呟いた。
自分の記憶にある安倍晴明とは少し違う。
けれども雰囲気はそのままだ。
「……貴様……!!十二天将がひとり、南の神獣、朱雀か!?」
代わりに答えたのは大天狗、今鏡だった。
彼の言葉に青年は弾かれたように跪く朱雀を見る。
「……なぜ十二天将が……?」
僕は呼んでいないのに、と青年は思った。
朱雀は愁いを帯びた表情で青年を見据える。
「小娘……名を紗紀と言ったな。彼女に召喚されたんだ」
「紗紀さん、に?」
その名に春秋は驚いて瞬きをゆっくり繰り返した。
確かに彼女の持つ妖力は定着していた。
それを助ける勾玉も渡した。
けれどまさか十二天将を召喚する力があったとは思いもしない。
自分ですら未だに呼び出せていないのに。
青年は顔を片手で覆うと高らかに笑った。
予想外な事ほど面白い事はない。
善悪以外に過去や人の心まで見えてしまう自分にとっては嬉しい誤算だった。
「……会いたかったよ、朱雀」
朱雀は名を呼ばれた事がこの上ない程嬉しく感じた。
「……晴明様……」
感極まっていると、場の空気の読めない鴉天狗達にザッと取り囲まれた。
朱雀は一気にその目に殺気を宿す。
彼らが彼の敵だと察知したからだ。
「今鏡様を今すぐ離せ!!」
鴉天狗達が一斉に攻撃を仕掛けようとした時、朱雀の動きを青年は手の平で制し、御札を取り出した。
「風神よ我が意思に力を急急如律令!」
青年を取り囲むように立ちはだかっていた鴉天狗達を一掃する。
豪風が吹き荒れ、吹き飛ばされて遠くへと舞うのが見て取れた。
「血の気が多いなぁ。僕は穏便に話合いで解決したいんだ。頼むよ、今鏡」
「ニンゲンなぞの下には付かぬ」
「意固地だなぁ。……言っておくけど、僕は人間全員の味方じゃない」
まさかの春秋の一言に、今鏡は目を見開く。
「何を言っておる。以前の貴様ならば半妖である以上納得もゆくが……。今の貴様は紛うことなきニンゲンだろう?」
「僕は悪意を持った人間のみを排除する予定でいる。君が愛した者も人間でしょう?そういう人間が住み良い場所を、僕は生み出したい。だからこそ、君の力が僕には必要なんだ」
春秋はどこか愁いを帯びた笑顔で手を差し出した。
春秋の話しに、今鏡は断る理由が見つからなかった。
実際その通りなのだ。
憎んだのも、愛したのも、人間だ。
その事実は変わりようがない。
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