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第十八話:一難去ってまた一難。

09一難去ってまた一難。

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「……結果論で充分です」

「紗紀ちゃん、本当に……ごめんね」


灯は涙声になりながら謝罪を口にした。

きっと凄く怖かったに違いない。

自分が怪物になっていく現実も、人を傷つけてしまったリアルな感触も。

紗紀はその細い背に手を回して、抱きしめた。

灯は一瞬驚いた顔をしたけれど、どこかほっとした表情で紗紀の背に腕を回す。


「朱雀さん、何名乗れますか?」

「大きさにもよるが三、四人だな。後は掴まってられるか、だ」


紗紀は灯を見て頷く。


「紗紀さん。ウカノミタマ様もよろしくお願いします。ここに居ては力を吸われて消滅してしまいます」


ウカノが紗紀へと小さくなったウカノミタマを差し出す。


「それを言ったらウカノさんもですよ。一緒に行きましょう!」

「紗紀、僕も連れて行ってほしい」


ユウリが紗紀の服を引っ張る。


「え。……でも、本当に危険だよ?」

「絶対に力になるから」


いつもはお兄ちゃんだからと、聞き入れてくれていた彼が珍しく引き下がらない。


「それに人数も……」


紗紀は乗れる人数を指折り数える。


「それなら私が、狐の姿になりましょう」

「じゃああたしが、お狐様を抱っこするわ!」


ウカノと灯が化け狸であるユウリの意思を尊重する。


「本当に危険な場所だよ。死んじゃうかもしれない。それでも、来るの?」

「紗紀姉ちゃん、俺からも頼む!一緒に行けない俺らの分も、兄ちゃんにたくしたい」


ムジナにまで頼まれては断れない。


「……分かった。戦場では私もいっぱいいっぱいで、ユウリくんを守りきれないかもしれない」

「自分の身くらい自分で守るよ。手を煩わせる為に行くんじゃないから」


まるでひるまない彼に紗紀は手を差し伸べた。


「マミちゃんとムジナくん、カイリくんは優一さんをお願いね」

「任せろ!」


ムジナは自信満々に自分の胸を叩いた。


「おむすび、作って待ってるから」

「たくさんたっくさーーん、作るよー」


マミが祈るように指先を絡めて紗紀を見つめる。

カイリは両手をわっと広げて一生懸命に伝えてくる。

そんな三匹が可愛くて、紗紀は笑顔をこぼした。


朱雀すざくさん人数増えましたがよろしくお願いします!」

「ああ、任せな。しっかり掴まっとけよ」

「はい!!」


紗紀の前にユウリが座り、紗紀の後ろにウカノを抱っこした灯が座った。

紗紀の襟の合わせ目にはウカノミタマがひっそりと潜っている。

紗紀の返事を待ってから、朱雀はその大きな羽を羽ばたかせた。

ぐんっと空高く舞う。

そのスピードは紗紀が白狼の翼を借りた時の比ではない。

呼吸がしづらい。

空は酸素が薄いのだろう。

上へ上と高く飛ぶのはいいけれど、問題は空間だ。

転移装置で異空間へと飛ばされているはず。

ならば上へ飛んだ所でどうしようもないのでは無いだろうか。


「朱雀さん、ここは異空間になっていて現実世界とは別物みたいなんです」

「……なるほどな。変な空間だ」


朱雀が違和感を感じて低く唸る。


「いつもは転移装置って機材で移動してたんです」

「空間移動、か。おい、しっかり掴まっていな」

「……はい!」

「少し呼吸もしづらくなるやもしれない。合図を送ったら息を吸って止めろ。……今だ!」


朱雀の掛け声に紗紀達は息を大きく吸ってぐっと呼吸を止めた。

ぐわんと何かにぶつかったような衝撃がした。

意識がぶれそうになる中、ただただ必死に朱雀にしがみつく。

この手を離したら確実に地面真っ逆さまに落ちて死ぬだろう。

ぐっと背中を引っ張られるような感覚と共に、ぎゅっと目を閉じればバリバリと鼓膜が破けそうな音がして、大きな揺れを感じる。

ガクガクと震えた後にバリンと一際ひときわ大きな音が響いた。

フッと体が浮いたような感覚がして、#眩__まばゆ_#い光りが差し込む。


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