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第十八話:一難去ってまた一難。
01一難去ってまた一難。
しおりを挟む紗紀は真っ暗な世界にいた。
まるで七曲に囲われてるような気分だ。
呼吸も楽でどこも痛くも苦しくもない。
お腹に触れてみる。
空いていたはずの穴も綺麗に塞がっていた。
ああ、そうかと紗紀は思った。
ここはきっと死後の世界。
ついに自分は死んでしまったのだ。
悲しいよりも、怖いよりも、どこかホッとしていて、なんだこんなものなのかと笑えてくる。
思い返せばなかなか凄い体験だったと思う。
普通とは言い難かったけれど親が居て、離婚騒動はあったけど厳しいおばあちゃんと暮らして、それなりに友達も居た。
就職だって決まっていたし、先々不安はあったけれど平凡だったのだ。
そのまま平凡に終わるはずだった。
それがまさかあんな一通の通達で、こんな戦場に駆り出されて色んな妖怪と関わる事になるなんて夢にも思わなかった。
楽しいだなんて心が弾み、誰かの死を知るたびに不安になり悲しくもなり、何より妖怪である彼を愛おしいと思った。
脳内に今までの事が巡る。
今まで出会って来たみんなの顔。
そして最後にミタマ。
頬を涙が流れた。
最後にあんな顔をさせてしまうなんて、自分の至らなさが腹立たしい。
もっと頑張れたんじゃないか?
もっと他の方法があったんじゃないか?
考え出したら何もかもが止めどなく溢れて、涙と共に流れ出る。
(悔しい。悔しくてたまらない)
紗紀はその場に蹲り、床なのかも分からないそこを叩く。
(もっとみんなと居たかったなぁ。美味しい食卓を囲って、たわいない話をして、灯さんと恋バナなんかして。サグジさんと今後も寄り添い生きて、いたかった)
『紗紀』
不意に、声が聞こえた気がした。
聞き覚えのある朗らかな声。
ゆっくりと顔を上げれば視線の先には死んだはずの優一が居て心臓がドキリと跳ね上がった。
優一は普段通り笑うと、紗紀の目の前に膝をついた。
『せっかく生かしたのに』
「優一、さん。私!!本当にごめんなさい!!私、あの時、優一さんを助けられたのに……」
震える手で優一の膝に触れる。
暖かくも冷たくも無い。
昂ぶる気持ちと後悔が紗紀の心をかき乱す。
優一は困ったように笑うと、首をゆっくりと左右に振った。
『違うよ。あれは俺が、そうしてくれと頼んだんだよ。きみが、俺を選んでくれないなら、生きていたくない、って。我儘言って。けど、きみには心に決めたひとが既にいた。それだけの事で、きみは何も悪くない』
優一の言葉に紗紀は涙をポタポタと零しながら鼻をすする。
「生きて、いて欲しかった、です。それでも、その先にもっと素敵な出会いがあるはずだって、前向きに思って欲しかった。……けど、私、私だったら。……やっぱり居なくなりたいと願ってしまうだろうから……。見殺しに、してしまった……」
自分の顔を覆って泣きじゃくる紗紀の頭を、優一は優しく撫でた。
自分がどれ程紗紀を悲しませ、苦しめていたのかを思い知る。
けれどそうまでしても紗紀の心の中に居座って居たかった。
ずっと一人だったから、同じ境遇である彼女ならばと、なぜか執着していたのだ。
優一は自分の浅はかさに思わず笑ってしまう。
乾いた笑い声がして、紗紀は不思議そうに優一を見た。
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