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第十七話:激動。

16激動。

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その頃紗紀と楓は迫り来る真っ黒な腕達をけながら、灯の元へと向かっていた。

けれど、なかなか前に進めない。

(何とか隙を付かなきゃ……)


「楓くん!灯さんの気を引く言葉をかけてあげてください!」


先を飛んでいた彼に届くように声を張り上げる。


「気、を引く言葉って……」


急に言われてもピンとは来なくて、思い悩む。

ずっと側にいた楓だからこそ、響く言葉があるはずだ、と紗紀は考えていた。


「なんでもいいんです!少しでも、意表を突くような!」

「……っ」


楓は一瞬迷った。

けれど、目の前で苦しむ灯の変わり果てた姿を見て、決意を固める。

ぐっとその拳を強く握って息を吸った。


「灯!……灯、好きだ!!!」


そのまさかの内容に紗紀が目を見開いた。


「ずっとお前の事が好きだった!!聞いてるか!灯!!」


灯のよどんだ瞳が、楓を映して見開かれていく。


(動きが、止まった!今だ!)


スピードを上げて、灯の目の前まで接近した。


「灯!!しっかりしろ!!灯!!!」


楓が灯の肩を掴んで揺さぶる。

だらりと垂れ下がった髪の隙間から見えるうつろな瞳が光を取り戻したように見えた。

紗紀も必死で声をかける。


「灯さん!!今助けますからね!!」

「……逃……テ……」

「え」


真っ黒い腕じゃなく灯の腕が楓を思いっきり突き飛ばした。

驚いた楓はその翼で羽ばたく事も忘れて地面真っ逆さまに落ちながら灯と見つめ合う。

その瞳からは涙が溢れていて口元がゆっくり動くのが見てとれた。


『ご、め、ん』


そう、動いたように思う。


(意味が分からない。ごめんってなんだよ。謝んなよ。ふざけるなよ)


地面に落ちる中、真っ黒な腕が楓を攻撃し、楓は遠くへと飛ばされた。

それをこちらへと向かっていたミタマが上手いこと受け止める。


「大丈夫かい?」

「……うん。……ありがとう」


地面に着地すると同時に、再び地面を蹴って飛び立つ彼にミタマは強さを感じた。

あの目は、あの表情は諦めてはいないのだと強い意志を伝えてくる。

ミタマも走った。

少しでも紗紀の傍に。

紗紀は苦しみなげく灯を力いっぱい抱きしめていた。


「離シテ!!サ、キ……チャ……ウウウウッ」


紗紀には少しだけ灯の気持ちが分かるような気がした。

楓にはきっとこんな姿を見られたくなかったに違いない。

だから何のためらいもなく彼だけを突き飛ばしたのだろう。

嫌だ嫌だと駄々をこねるように泣きじゃくる彼女の耳元で打開策を話す。


「灯さん、聞いてください。試したい事があるんです。私はあなたを救いたい」


紗紀の言葉に驚いたように目を見開いた灯はその動きをぱたりと止めた。

真っ黒な腕が灯の意思とは関係無しに襲いかかってくる。


「紗紀チャン……!!!」


灯が声を上げて叫ぶ。

紗紀は灯を抱きしめたまま顔だけそちらへと向けた。

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