267 / 368
第十七話:激動。
16激動。
しおりを挟むその頃紗紀と楓は迫り来る真っ黒な腕達を避けながら、灯の元へと向かっていた。
けれど、なかなか前に進めない。
(何とか隙を付かなきゃ……)
「楓くん!灯さんの気を引く言葉をかけてあげてください!」
先を飛んでいた彼に届くように声を張り上げる。
「気、を引く言葉って……」
急に言われてもピンとは来なくて、思い悩む。
ずっと側にいた楓だからこそ、響く言葉があるはずだ、と紗紀は考えていた。
「なんでもいいんです!少しでも、意表を突くような!」
「……っ」
楓は一瞬迷った。
けれど、目の前で苦しむ灯の変わり果てた姿を見て、決意を固める。
ぐっとその拳を強く握って息を吸った。
「灯!……灯、好きだ!!!」
そのまさかの内容に紗紀が目を見開いた。
「ずっとお前の事が好きだった!!聞いてるか!灯!!」
灯の淀んだ瞳が、楓を映して見開かれていく。
(動きが、止まった!今だ!)
スピードを上げて、灯の目の前まで接近した。
「灯!!しっかりしろ!!灯!!!」
楓が灯の肩を掴んで揺さぶる。
だらりと垂れ下がった髪の隙間から見える虚ろな瞳が光を取り戻したように見えた。
紗紀も必死で声をかける。
「灯さん!!今助けますからね!!」
「……逃……テ……」
「え」
真っ黒い腕じゃなく灯の腕が楓を思いっきり突き飛ばした。
驚いた楓はその翼で羽ばたく事も忘れて地面真っ逆さまに落ちながら灯と見つめ合う。
その瞳からは涙が溢れていて口元がゆっくり動くのが見てとれた。
『ご、め、ん』
そう、動いたように思う。
(意味が分からない。ごめんってなんだよ。謝んなよ。ふざけるなよ)
地面に落ちる中、真っ黒な腕が楓を攻撃し、楓は遠くへと飛ばされた。
それをこちらへと向かっていたミタマが上手いこと受け止める。
「大丈夫かい?」
「……うん。……ありがとう」
地面に着地すると同時に、再び地面を蹴って飛び立つ彼にミタマは強さを感じた。
あの目は、あの表情は諦めてはいないのだと強い意志を伝えてくる。
ミタマも走った。
少しでも紗紀の傍に。
紗紀は苦しみ嘆く灯を力いっぱい抱きしめていた。
「離シテ!!サ、キ……チャ……ウウウウッ」
紗紀には少しだけ灯の気持ちが分かるような気がした。
楓にはきっとこんな姿を見られたくなかったに違いない。
だから何のためらいもなく彼だけを突き飛ばしたのだろう。
嫌だ嫌だと駄々をこねるように泣きじゃくる彼女の耳元で打開策を話す。
「灯さん、聞いてください。試したい事があるんです。私はあなたを救いたい」
紗紀の言葉に驚いたように目を見開いた灯はその動きをぱたりと止めた。
真っ黒な腕が灯の意思とは関係無しに襲いかかってくる。
「紗紀チャン……!!!」
灯が声を上げて叫ぶ。
紗紀は灯を抱きしめたまま顔だけそちらへと向けた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
くろぼし少年スポーツ団
紅葉
ライト文芸
甲子園で選抜高校野球を観戦した幸太は、自分も野球を始めることを決意する。勉強もスポーツも平凡な幸太は、甲子園を夢に見、かつて全国制覇を成したことで有名な地域の少年野球クラブに入る、幸太のチームメイトは親も子も個性的で……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
QA高校ラジオの一刻
upruru
ライト文芸
初めまして。upruruです。初めての小説投稿です。ジャンルは、コメディです。異世界に飛ばされてバトルを繰り広げる事も無ければ、主人公が理由もなく何故か最強キャラという事もありません。登場人物は、ちょっと個性的というだけの普通の人間です。そんな人達が繰り広げる戯れを、友人集団を観察している感覚でお付き合いして頂ければ幸いです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる