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第十七話:激動。
11激動。
しおりを挟む紗紀は目前まで近付いて来た通常よりも大きな怪物に愕然とした。
思わず口元に手を当てる。
泣き叫び出してしまいそうな、吐いてしまいそうな感覚を必死に飲み込む。
「……紗紀、もう遅いけど見ない方がいい。休憩所まで下がっていてくれないかい?」
ミタマの配慮に紗紀は思い切り首を左右に振った。
視線が慌てて楓を探す。
彼もまた、白い羽で宙に浮いたまま真っ直ぐにその怪物を見ていた。
その瞳が大きく見開かれているのが分かる。
目の前に迫り来るのは中央に灯の体が在り、その体を主本に真っ黒な手足がたくさん生えていた。
まるでおかしな薬を飲んだ七曲の時の事を思い出す。
もしかしたら灯もそのおかしな薬を飲まされたのだろうか。
そう考えて身震いする。
(なんて酷い……。これも政府がやったの?)
生きる為にこの戦地から逃れたはずなのに。
怒りに体が震える。
「ありゃあ酷ェーな。頭のイかれちまった人間様の考えるこたァ分かんねーや」
「紗紀は……どうするつもりじゃろうな?」
白狼が戦闘態勢に入った。
けれど雪音は殺める事を躊躇い使役する手段を取った紗紀の事を思い、胸を痛める。
「今優先すべき事は通常の敵の殲滅だ」
「そうだね!あの大きいのは紗紀ちゃんとタマちゃんに任せて、他はこっちで何とかしちゃおう!」
七曲は九重に同意すると気合いを入れ直した。
そんな彼らの言葉を聞いて雪音も戦闘態勢に入る。
そして一斉に地を蹴り駆け出した。
「紗紀ちゃん、アタシはどうしたらいい?」
鞍馬は命に変えても紗紀を守ると約束をしている身だ。
安易に勝手は出来なかった。
「みんなと他の怪物をお願いします!」
「分かったわ!」
炭のような翼を羽ばたかせて、鞍馬も参戦する。
「紗紀、いけるかい?」
「はい」
震える紗紀の肩にミタマは触れる。
紗紀は頷くけれど、灯を助け出すイメージがまとまらない。
邪念が邪魔をする。
安と苛立ちに胸が押しつぶされそうだ。
灯の周りの敵達を白狼、雪音、九重、七曲が倒しにかかる。
(怯んでる暇はない)
怪物の数は異常だ。
早く加勢に行かなければまずいだろう。
紗紀は灯の目の前に対峙するように立ちはだかる。
その隣にミタマも立った。
向かい合う彼女は、どこか虚ろな瞳をしていて焦点が合っていないようだ。
皮膚を貫くようにして生える腕。
その皮膚は青筋が浮いていた。
「灯さん!灯さん!!」
叫んでみるけれど聞こえていないのか反応はない。
複数の手が伸びて来る。
ミタマと紗紀はそれを爪で切り裂き、炎で焼き払いながら対応した。
けれども伸びて来る手の速さも量も多くてその場を凌ぐのが精一杯だ。
息つく暇も無い。
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