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第十七話:激動。
06激動。
しおりを挟む「伸びてるね。爪も伸びてるんだよ」
手を見れば確かに爪も伸びていた。
「……これで、妖力を貰わなくても自分で生み出せるんですか?」
「そういう事になるね。お役御免になるのは少しばかり寂しいけれど」
なんだかとても感慨深くて、目尻に涙が滲んだ。
「悲しいのかい?」
紗紀の涙を見て、ミタマがオロオロとする。
「……いいえ。ついに定着したんだな……って」
「よく頑張ったね。もうしばらく、よろしく頼むよ」
ミタマが紗紀の頭を撫でた。
「何を言ってるんですか、サグジさん」
「え」
「ずっと側に居てくれるんでしょう?約束、忘れたんですか?」
ふくれっ面をした紗紀の頬を、ミタマは笑ってつつく。
「いいや、忘れてなんかいないよ。側にいさせて」
微笑み合ってどちらからともなく口づけを交わした。
◇◆◇
「オマエら……。起きてくんの遅ェんだよ!見ろ時刻!逢魔時が目と鼻の先だバカ野郎!呼びに行こうにも何か事が起こってたら気まずいしで起こしにも行けねェーだろーが!」
居間へ行けば、不機嫌な白狼が時計を指差して叫ぶ。
「何時に集合なんて言ってないんだからイイじゃなぁい」
鞍馬は面倒くさそうにそう援護してくれた。
「妖力が定着したようだな」
誰もが触れて良いものか悩んでいた話題に、先人を切って切り込む九重。
妖力が定着するような出来事があったのは明白だった。
「なんとか無事に。ここに来て自分の戦闘力が少しでも上がるなら嬉しい限りです」
「髪、凄く伸びておるな。先に切るかえ?それともご飯食べるかえ?直ぐに支度は整うよ」
雪音がしゃもじを手にして問いかけて来た。
「せめて前髪は整えようか、紗紀」
「ばっさり切ってもらってもいいですよ?」
「嫌だ。せっかく元の長さに戻ったんだ。しばらくはこのままで居てほしい」
ミタマは傍目も気にせず紗紀の長く伸びた髪を一束掬うと、口づけを落とす。
キャーという、鞍馬の黄色い声が上がった。
他のみんなはそっと視線を逸らす。
「確かに最初に会った頃は長かったよな。なんで切っちまったんだよ、髪」
白狼の言葉にみんなが彼に視線を向けた。
なんでそんな事を知っているのだと言いたげだ。
九重は事情を知っていたので、興味なさげにお茶を啜った。
「髪を切ったのは決意表明です。私、どうしても妖怪を倒すんじゃなくて正気に戻したかったので」
紗紀は周りの視線に気づいていないのか、問われた事に返答する。
「白狼とは髪の長い頃に会って居るのかい?」
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