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第十六話:交渉。
13交渉。
しおりを挟む想像以上の好条件に、紗紀は嬉しくなってしまった。
自分も以前妖怪達との共存方法を考えていたからだ。
まさかこんな所で実現しそうになるとは夢にも思わなかった。
もしかしたらその事まで春秋の前ではお見通しなのかもしれない。
その場所でなら、半妖として生まれた子供も、健やかに生きていけるよ。
そう、春秋の声が聞こえた気がした。
「……本当、に……?そんな事が可能なんですか?」
思わず緊張してしまう。
春秋はしっかりと力強く頷いて見せた。
「うん。約束するよ。その代わり、この戦いを終わらせなきゃだけどね。一緒に手を組んでくれますか?」
春秋が紗紀を見た後に、ミタマへと視線を向ける。
紗紀が受け入れてくれる事は分かり切っていたからだ。
ミタマを見れば、あまりの好条件にどこか納得がいかない様子だった。
けれど紗紀が喜んでいる姿を見れば、無下には出来ない。
春秋が差し出すその手を握り返した。
「信用を裏切らないでよ」
「ふふっ。裏切る予定は無いから安心して。後は、君もそうだね。望みを叶えてあげるよ」
次に楓を見た。
「……。言わなくても、俺の望みも分かるんだろ?」
彼の言葉に春秋はにっこり微笑んだ。
「君は男らしいね」
「声に出さなくていい」
「分かりました。任せてください。お安い御用です」
どうやら交渉は成立したようだ。
「後は、ウカノミタマ様に許可を取らなきゃですね」
紗紀が思い出したようにそう言えば、ミタマの表情がどこか陰った気がした。
「僕からも頼みに行きましょう」
「いいや。こちらから話は通す。とりあえず、キミ達の要件は分かった。後は信憑性を見極めたい。俺らが把握している事は、キミ達が天狗じゃない妖怪を操っていた事、その件は天狗が主犯格だと知られたくなかったから、だよね?」
ミタマがこれまでの出来事を深堀りしていく。
「ええ。そうです。まさかこんな若い子達が巻き込まれてるなんて思いもしなかったので。狛犬を集めてる話しを聞いて、こっそり白狼を政府に紛れ込ませて良かったよ」
「春秋さんが人間社会を変えたいのはどうしてですか?」
「……そうだね。君もあの世界で生きていたら気になる事もあるんじゃないですか?」
思うことが無いわけじゃない。
けれど、なんとかなる問題なのかは分からない。
「せっかく生まれた生命なのに、自分で命を絶つ者が凄く多いんです。僕の大切な人が酷いいじめにあって……追い込まれて自殺をしました」
(自殺……)
春秋は注がれた湯呑を両手で包んで、その中身を眺めながら話す。
その表情は過去を思い出しているのか、どこか憂いを帯びていた。
「昔も今も、人が人を殺し合うんだから笑っちゃいますよね。だから、僕は僕なりにこの世界を変える努力をする。それが恐怖による制圧だとしても。結果何も変わらなかったとしても。試して駄目なら諦めもつく。この世界に」
「春秋さん……」
彼は適任だ、そう大天狗の事を言っていた春秋の心情が、今なら痛いほどによく分かる。
人間によって死んでしまった大切な人の存在。
彼らが切に願い、目指す世界。
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