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第十六話:交渉。

12交渉。

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春秋はどこか気まずそうに口を開く。


「まぁ、その。白狼の言う通り。あんまり良い気はしないだろうから隠したかったんですけどね。……僕は人の心内も、過去も"見える"んです」


困ったように苦笑する春秋。

紗紀もミタマも言葉を飲み込むのに時間がかかって、ゆっくりと瞬きをしながら春秋を見た。

その間にも手土産の風呂敷を広げてタッパーの中から作ったまんじゅうを一人一人渡して歩く白狼。


("見える"それはつまり……)


「私が何を望んでるのか見えてるんですか?」

「ええ。当ててもいいですか?」


春秋がたのしげに笑えば、紗紀は急に恥ずかしさが増す。


(何を言われてしまうんだろう?望んでる事?)


紗紀はちらり、とミタマを見やる。

ふとミタマと目が合って紗紀は思わず肩を跳ねさせると、視線をらした。

耳まで真っ赤だ。


「紗紀さん、君は……」

「ま、待ってください!!!」

「え」


ガタンと勢いよく立ち上がった紗紀は、真っ赤な顔をして春秋を見る。

驚いてみんなが紗紀を見上げた。


「ちょ、ちょっと一旦いったん私だけ聞いても、いいですか?」


徐々に尻すぼみになっていく言葉尻。

春秋も立ち上がると手招きして見せた。

思わず耳を寄せれば、ミタマに肩を抱き寄せられて春秋と離される。

春秋はミタマにガッチリ頭を掴まれていた。


「あ、痛た!!」

「え!ミ、ミタマさん!?」

「近過ぎるよ。何考えてるんだい?全く」


(まさかの耳打ちも駄目だとは!!)


確かに今更至近距離である事を把握する。

そうか、このウッカリ距離を詰めてしまう所が駄目なのだと言われていたのかと今更ながら思う。


「うっわぁ……。どんだけ自分に自信が無けりゃあんなコトで嫉妬するのかねェ~」

「アンタはどうしてそうも自分に自信満々なのかしら!」


ミタマの行動にげんなりする白狼に対して、鞍馬は鼻で馬鹿にするように肩をすくめてみせた。

喧嘩を始める二羽をよそに、春秋は笑顔で話しを進める。


「そんな恥ずかしがる内容でも無いと思いますけどね。君達の望みは二人で共に在る事。それなら話は早い。君達が今まで一緒に住んでいたあの異空間。そこをそのまま、いいやもっと住みよくして提供します。いつでも紗紀さんの世界へ行き来出来るように。ここと繋げたっていい」


春秋はそう言いながらトントンと机を人差し指で叩いた。

紗紀とミタマは顔を見合わせる。


「君達の住んでた場所を観光地にして収益化すれば君達に収入が入り、それでまた必要な物を買い揃えられますよね?妖と会える空間として提供すれば例えばこの先君達との間に生まれた妖も安心してそこで暮らしていける」


どうかな?なんて春秋は優しい笑顔で提案してみせた。


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