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第十六話:交渉。

09交渉。

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「実は……」

「待っ……」


話し始めた鞍馬に、制止の声をあげようとすれば、ミタマの手が紗紀の口を塞ぐ。

白狼も春秋も詳しく知らない内容を、楓達も居る中暴露ばくろされて青くなるやら赤くなるやら。

泣きたい気持ちに駆られた。


(なんで公衆の面前ではずかしめを受けてるの私!!)


「紗紀ちゃんはホント良い子で、こんな酷い事したアタシも余裕で許してくれて、アタシ、どう償えばいいか……」


はらはらと泣き出す鞍馬。

本気で紗紀を食い殺そうとした者と同一人物なのか疑わしいレベルだ。

ミタマは冷酷な表情で鞍馬を見下ろすと、しゃがんでその首に巻かれた包帯を爪でちぎって外した。

あらわになった首筋はえぐられたように食いちぎられている。

それはどれだけ紗紀が痛かったか、見た目だけで想像に容易たやすい。


「紗紀、彼を許したのかい?」

「はい。ほら、生きてますし」


紗紀は慌てて笑顔で元気をアピールして見せる。


「殺されたかもしれないのに?……キミは本当に……」


残される側の気持ちを何も分かっていない。

怒りをどこにぶつけていいのか分からない。

こうなってしまったのも、灯の狛犬であるキシマがあれだけ紗紀から離れるなと念を押していたのに、彼女を置いて行った自分に少なからず原因がある。


(だけど、でも……)


「……切腹、するわ」

「えっ!?」

「残虐無慈悲に切腹するわ、アタシ!誰か刀をよこしなさい!」


鞍馬が決意を固めてそう叫ぶけれども、みんな丸腰だ。

刀を持って戦っていた者など一人として居ない。


「なんでよぉおおおおお!誰か一本くらい持ってなさいよ!戦ってたんでしょぉおおおおお!」

「はぁ。本当、キミが犯した罪は、死では償いきれないよ。楽に死なせてなんかあげない。キミは、生きて、罪を償って。逃亡は認めない。いいかい?」


常に邪魔だと思うと殺そう?と提案して来た彼が、まさかこんな事を言い出すとは夢にも思わなかった。

紗紀はマジマジとミタマを見つめる。


「……いいの?アタシ、生きていてもいいの?」

「今は猫の手も借りたいんだ。次に相手がどう出るのかも分からないし」


ミタマは重い溜息を吐き出すと立ち上がった。


「ひとまず上がらないかい?ゆっくり話を聞きたい。キミ達が何をしたいのか、とかね」

「……そうさせて頂きます。白狼も鞍馬も、おいで」


ミタマが紗紀の腰に腕を回して歩き始める。

そんな彼の背を追って、彼らもまた歩き出した。


「ミタマさん、あの……ウカノミタマ様は?」


ようやく聞くタイミングが出来て、紗紀はそっとミタマに問う。

ミタマは困った顔をして目を閉じた。


「ウカノミタマ様は力の使い過ぎで衰弱されている。今はウカノが側に付いているよ」

「……そう、ですか」


自分がこの神社を離れなければ、こんな事にはならなかったのではと思う。

視線を下に向ける紗紀の頭を、ミタマはぽんと撫でた。


「紗紀、キミが戻って来てくれて良かった。本当に、良かった」


紗紀が駆けつけるのが遅ければ、誰かしらが欠けていたかもしれない。

最悪全員の死もあり得た。

想像以上に、力に差がある。

ミタマは自分の非力さに悔しさを覚えていた。


 ◇◆◇

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