上 下
237 / 368
第十六話:交渉。

03交渉。

しおりを挟む


「これで人には見えぬ」

「……人に、見えない?」

「ああ、ここには夜でも人が来たりする。巫女に宮司は夕方までおる。見つかると騒ぎになるだろう?」


ウカノミタマの言葉に、楓も納得する。


「ウカノ、部屋を」

「はい。こちらになります。どうぞ」


ミタマにそっくりな女性に楓は小さく会釈えしゃくをすると後をついて行った。


「少しは頭が冷えたか?」

「……はい」

「気を引き締めよ」


ウカノミタマの言葉に、何も返す言葉は見当たらなかった。

ただただ拳を強く握りしめる。

日はどんどんと闇夜に飲み込まれて行った。

少しだけ欠けた月が空にぽっかりと浮かび始めた頃、ついにその時が来た。

シャン、と鈴の音が夜空に鳴り響く。

それは、あの妖怪が訪れる時に鳴る音だ。

ミタマ達はそれぞれに鳥居へと駆け出した。

ゾワリと背筋が総毛立つ。

今まで戦ったあの黒い怪物の気配だ、一体や二体等と言う可愛らしいものではまるでない。

凄いむれがこちらに向かっているのを感じた。

ミタマは戦闘態勢に入る。

それと同時に背後からウカノ、そしてウカノミタマまでもが現れた。


「フッ。ついに来よったか。待ちわびたぞ」

「待っては駄目ですウカノミタマ様」


ウカノミタマを庇うように立つウカノ。

これから始まる戦場。

すでに異臭が凄かった。

まるで腐ったものがこちらに向かって来ているようだ。


「ウカノ、境内けいだいに居る人間の意識を奪え。そして安全な場所への避難を任せる」

「承りました」


ウカノミタマの言葉に、ウカノは最敬礼をすると即座に行動を開始しする。

楓はハッと我にかえると、慌ててミタマへと視線を向けた。


「……この人数で、太刀打ち出来るか?」

「"出来るか"じゃない。"やるしか無い"んだ」


ミタマのその言葉に、決意のこもった瞳に、楓は思わずゴクリと喉を鳴らした。

太刀打ち出来なければ、“死”のみだ。


「来たわ!」


ウカノの声に前方を見れば、大群だった。

黒い塊がぞわぞわとたくさんの手足を使い凄い速さで前進して来る。


「さて、どこまで歯が立つやら。腕試しとゆこう」


ウカノミタマの合図で、それぞれが駆け出す。

鳥居の中には入れさせない。

その前に片をつける必要があった。


 ◇◆◇


紗紀達は、安倍春秋が作った空間の歪みを通り、稲荷神社の上空へとたどり着いた。

まさか地面の無い所だとは思いもしなかった四人は、突如空中に投げ出される事となった。


「春秋テメェ!!バカだろ!!」

「あれ!?ごっめーん!!イメージが甘かった。途中で空から見た稲荷神社ってどんな風景かなって思ったのが敗因です」


のんきにミスした原因を語る春秋。

白狼は翼を広げて、紗紀を手繰たぐり寄せる。


「オイ!意識あるか!?」

「い、生きてる!」

「そうか、良かったな!」


紗紀の無事にホッと安堵すると、彼女に手土産を持たせてそのまま横抱きにして羽ばたく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

くろぼし少年スポーツ団

紅葉
ライト文芸
甲子園で選抜高校野球を観戦した幸太は、自分も野球を始めることを決意する。勉強もスポーツも平凡な幸太は、甲子園を夢に見、かつて全国制覇を成したことで有名な地域の少年野球クラブに入る、幸太のチームメイトは親も子も個性的で……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

QA高校ラジオの一刻

upruru
ライト文芸
初めまして。upruruです。初めての小説投稿です。ジャンルは、コメディです。異世界に飛ばされてバトルを繰り広げる事も無ければ、主人公が理由もなく何故か最強キャラという事もありません。登場人物は、ちょっと個性的というだけの普通の人間です。そんな人達が繰り広げる戯れを、友人集団を観察している感覚でお付き合いして頂ければ幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...