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第十六話:交渉。
01交渉
しおりを挟むミタマ達はウカノミタマの部屋にて話し合いをしていた。
紗紀が何者かに拉致された事、そしてそれはもしかしたら天狗の可能性。
楓達の案をひとしきり聞いてから、ウカノミタマは静かに口を開いた。
「結論からして紗紀のような者がこちらに来る件は了承した。直ぐにでも来るといい」
その言葉に楓は直ぐ様そちらへ行くと連絡を切った。
そして室内にはウカノミタマとミタマのみが残る事となる。
ミタマはそわそわしていて、居ても立っても居られない様子だった。
そんなミタマを見てウカノミタマは思わず吹き出す。
「……ふっ、あはは!……すまない。つい面白くてだな」
「微塵も笑える状況じゃありませんよ!」
ミタマが声を荒げて叱咤した。
それがまた可笑しくて、ウカノミタマは目尻に浮かぶ涙を拭いながらも笑う。
「急いては事を仕損じる、だ。場所が分からぬ以上手当たり次第には動けん。違うか?」
「……違いま、せん……。ですが!!」
彼女の身に何かありでもしたら、それこそ取り返しがつかない。
ミタマは正座した足に乗せた両手にぎゅっと力を込める。
後悔していた。
あの時、紗紀ごと連れて行っていれば。
あの手を握り返していたら。
(どうして離れてしまったんだろう)
悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。
「そんなに唇を噛みしめるで無い。血が出るぞ」
「……ッ!そんなもの……どうでもいいです。ウカノミタマ様、どうかお力添えを……!!」
ミタマは土下座をして見せる。
ウカノミタマは深い溜め息を吐き出した。
「其方の気持ちは分かるが、出来る事と出来ない事があってだな……。何でも出来ると思う事なかられだ」
「じゃあ、どうすれば……」
ミタマは紗紀の気配を辿るけれど遠過ぎて分からない。
そんな焦燥するミタマの顎を掴み、くっと上へと持ち上げる。
視線が絡めばミタマが眉を悲しめに下げていた。
耳まで垂れ下がっている。
「そんなにか」
「え?」
「そんなに、好いておるのだな?」
ミタマの視界には真剣な眼差しで見つめるウカノミタマが映っていた。
いつだって冗談まじりで人の話も聞かないで適当にあしらわれて、だから自分に対してこんな風に真剣に向き合って貰った事があっただろうかと思い返す。
ウカノミタマは参拝に来る人々には優しい眼差しを送るのに、自分に対してはそうでは無い事がミタマにはずっと不満だった。
「……紗紀とずっと一緒に居たい。どうしたらいい?好きなんだ、彼女の事が。失いたく無い。他の何を失っても……」
そう目尻に涙を浮かべて苦しげに懇願するミタマを見て、ウカノミタマは優しげに笑う。
そう、ずっと望んでいた。
自分にも同じようにその笑顔を向けて欲しいと。
「良いな。良い男になって来たではないか。其方は妾の大事な家族だ。家族の大切な者もまた……」
「ウカノミタマ様……」
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