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第十五話:拉致。

27拉致。

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「だから……、だから!アイツが大事そうに連れてきたオンナをぐちゃぐちゃにしてやったらあの鼻へし折ってやれるんじゃないかって……、思って……。本当に、ごめんなさい」


言いながら怒りが落ち着いたのか、自分のあまりの身勝手さ、愚かさに気づいたのか、言葉尻がしぼむ。

再度そのたくましい腕に抱きしめられた。


(彼の本音は、きっとまた形が違うんじゃないかな……)


自分を見てほしい。

自分を頼ってほしい。

自分の存在を見てって意思表示。

まるで子供が親に我儘を言ってアピールするようなそれにとても良く似ているように思う。


(私の場合は真逆だったけど)


紗紀は良い子であろうと努力していた。

成績も、家の事も、褒めて貰いたくて、必要とされたくて。

捨てないでほしいと必死でしがみつくように、感情を押し殺して。

結局どちらからも愛されはしなかったけれど。


「おい、待たせたな。……って、何してやがんだこのオネエ天狗!!」


白狼が包を抱えて、飛んで戻ってくれば、なぜだか紗紀が羽交はがい締めされているように見えて思わず叫んでしまった。


「うるさいわよぉおおおお!!あっち行ってなさいよぉおおお!!」


鞍馬も負けずに声を張り上げる。

泣き顔を見られたくないのか、紗紀の肩に顔を押し当てたままだ。


「……な、なんで泣いてんだ?」


声質で泣いていたのが丸わかりだ。

そんな白狼の肩を春秋は叩いた。


「さて、本腰入れて出発するよ。ちょっと空間を歪めるから覚悟するように」


なんて明るく物騒な事を言うのだろう。

未だに、肩元でぐずる鞍馬の後頭部を紗紀は慰めるようにポンポンと叩いた。


「……ごめんなさい」


ぽそり、小さく、けれどハッキリと届いた言葉。

意外と悪い妖怪ではないのかもしれないと思い始める紗紀。


「オイ。いい加減離れろや。ぶっ飛ばすぞコラ」

「いいじゃない!減るモンじゃあるまいし!あだだだ!!」


紗紀にくっついたままツンっとそっぽを向く鞍馬に、プツリと切れたのか白狼が羽交い締めにする。

そんな二羽のやり取りを、紗紀はやれやれと眺めた。

その間にも春秋は小さな声でぶつぶつと呪文を口にしながら印を結ぶ。

春秋を軸に風が巻き立ち、青白い光が眩く放たれると、徐々に静かになっていった。

目の前に真っ黒い穴が渦を巻いている。


「さぁ参りましょうか。みんな、覚悟は出来てるかな?」


 春秋が手の平でその穴を指し示す。ゴクリと生唾を飲み込んだ。


(サグジさん、みなさん、どうかご無事で……)


うながされるままに、一歩一歩とその穴へ歩を進めた。

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