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第十五話:拉致。
24拉致。
しおりを挟むなんだか少しは教える側らしくなって来た。
その姿はまるで、水泳初心者に、先生が両手を引いて泳ぎ方を教えるそれのようだ。
二、三度翼を羽ばたかせれば、確かに体が上へと持ち上げられる。
「どうだ?コツが掴めそうか?」
「うん。なんだか白狼の言葉の意味が見えて来た気がする」
紗紀の言葉に口角を上げて、ニッと笑った。
誰かに物を教えるのは初めてで、教えた事を相手が上手く理解し、目の前で成長していく姿はなんて気分が良いのだろうと思う。
何より彼女はとても素直で、言われた事をそのまま試すからか、飲み込みが早い。
「さて、じゃあそろそろ下に降りるか。降り方も勉強の一つだからな」
「はい」
そう、例え飛べたとしても、降りられなければ大惨事だ。
「降りる時は、風に沿って、翼の傾きを変える。こう、空を旋回しながらゆっくりと下降してく感じ」
「あ、良く飛ぶ紙飛行機もすっごくゆっくり旋回しながら落ちるよね。あんな感じかな?」
「そうそう。ほら、試すぞ。この場合だと両手握るよりは片手がいいか。おい、ちょっと右手離すぞ」
「え!」
返事する間も無く離された手。
白狼側に体が傾いてしまう。
「オイ。こっちに来んな、飛びづらい」
「酷い。片手じゃバランスが……」
「じゃあ両手離すか?」
「駄目!」
食い気味で却下する紗紀。
繋がれている手と反対の手で白狼にしがみついていた紗紀は、一つ深呼吸をすると意を決してその手を離した。
白狼の予定通り片手だけが繋がっている状態になる。
戦闘で使うなら手なんか繋いでられないのが実情だ。
「立て直したか。いいんじゃねェーの。風が見えるか?」
「はい」
今までは白狼の体で見えなかった前方が、横に並ぶことで見えて来る。
風の流れている道筋までハッキリと。
「ほら、翼右に傾けてみな?」
言われた通りに傾ければ、緩やかなカーブを描きつつ下降していく。
「上出来だ」
地面に上手い事着地すると、白狼が背中を叩いて褒めてくれた。
「とりあえず、飛ぶ感覚は分かりました!」
「まずは第一歩だな。後は筋力鍛えて、飛ぶ速さと、方向転換の速さを身に着けろ。自由自在に飛べるようにな」
「はい」
決して簡単な事ではないだろう。
今回は白狼が手とり足取り教えてくれたからこそ、なんとなくの感覚が掴めたに過ぎない。
けれど、紗紀は強く決心する。
(完璧じゃなくてもいい。不格好でもいい。戦闘に役に立つくらいには扱えるようになりたい)
自分の世界が、可能性が広がる事が少なからず嬉しくて、胸が高鳴った。
「おーい!」
遠くから声が聞こえる。
そちらに視線を向ければ、そこには春秋と、例の鴉天狗、鞍馬の姿があった。
「準備は終わったのかよ?」
「うん、まぁね。天狗達にもちゃんと声かけておいたし。そろそろ出発しようか。待たせてすみません」
朗らかに笑う春秋に、白狼は鋭い眼差しを向ける。
「で?ソイツは何んだよ」
顎で春秋の後ろに一歩下がって立つ鞍馬を指し示す。
春秋はにっこり笑顔で鞍馬へと振り返った。
「あぁ、彼も連れて行こうかと思って」
「はぁ?なんでだよ!」
「僕の大切なお客人に手をかけた罰を償いたいんだって。ね?」
笑顔の圧力がそこにはあった。
向けられた視線に、ひぃ!と小さな悲鳴が聞こえる。
鞍馬と呼ばれた鴉天狗の表情は明らかに青ざめていた。
一体何をされたのか、気にはなるが聞きたくない。
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