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第十五話:拉致。
20拉致。
しおりを挟む「世界に君みたいな子が溢れてたら、きっと平和で穏やかなんだろうね」
そう言って笑顔を深める春秋の顔には、どこか陰りがあるように見えた。
「よし……。上手くいったかな?どれどれ」
手を離して、紗紀の首筋を覗き込む。
噛みちぎられてえぐれていたはずの首がすっかり綺麗に再生していた。
「うん、いいね。バッチリだ」
どこか満足そうに頷く春秋。
それと同時に、勢いよく障子戸が開け放たれた。
「そう言えばずっと気になっていたのですが、耳、可愛いですね」
春秋が自分の頭上で両手をあげて耳を作ってみる。
ハッ、とそれに気づいて紗紀は自分の耳に触れた。
ふわふわとした耳がそこにはひょっこり生えていた。
(とっさに変化したの忘れてた……)
なんだか急に恥ずかしくなった。
「妖狐、というよりは……狛狐かな?使役した子使うとイメージ次第で見た目に変化出ますもんね」
うんうんと頷く春秋。
「よーっす!完治したかー?オネェ天狗連れて来たぜー」
まるでペットでも連れて来たようなノリで颯爽と部屋へ入って来た白狼。
障子をスライドして開けただけマシと言うべきか。
彼の手には縄が握られていて、床に転がっている何かにぐるぐると巻かれている。
まるで大きな蓑虫でも引きずってるかのようだ。
「やぁ、鞍馬。話は聞いたよ」
「すみませんでしたーーーー!!」
春秋が言い終わるが早いか、食い気味で謝罪をする鞍馬。
「謝って済む問題だったら良かったんだけどね」
どこか残念そうにそう言う春秋。
鞍馬がひぃ……と息を飲むのが聞こえた。
「白狼。その縄貸して」
「あいよ」
「んで、紗紀さんをよろしく。僕はちょっと支度と、制裁があるから」
にっこり笑顔でそう言うと、白狼から渡された縄を握りしめて歩いて行く。
その後ろを引きづられて連れて行かれる鞍馬。
ごめんなさい、ごめんなさい、と念仏の如く唱え続けていた。
「可哀想とか、思うなよ?」
白狼がジト目で紗紀を見る。
うっと言葉に詰まった。
「オマエは、自分が何をされたのか忘れんな。決して許していい事柄じゃねェ。俺様が来なきゃ、どうなってたかしっかり想像しろ」
人差し指でさされて、紗紀は言われた通り想像してゾッとした。
出血多量で死んでたか、彼に食べられていたかもしれない。
「ハイ、想像終了!」
白狼はそう言ってパンと両手を打ち鳴らした。
「とりあえず、オマエにコレ返すわ。好きに使えば?」
そう言って手渡されたのは白狼を使役したあの御札だった。
「……いいの?」
「何が?」
差し出された御札を見つめて、紗紀が問えば、白狼の方が聞き返す。
「だって……私なんかより春秋さんとの方が付き合いも長いだろうし、春秋さんの方が白狼の良き理解者だって思うし……」
「まぁ、そうだろうケド。アイツは自分一人でも強いし、俺様の出る幕ねェーし、オマエみたいに無防備じゃねーし?……それにオマエ、俺様頼らねーと飛べなくね?」
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