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第十五話:拉致。
18拉致。
しおりを挟む紗紀は妖怪と関わる前の自分を思い出す。
けれど知り合った彼らは、話し合える。
助け合える。
分かち合える。
そう人間となんら変わらないと紗紀は思う。
「君の想像通りです。妖怪は人間を驚かせ、怖がらせ、時には殺してまでその名を知らしめようとする。実際それだけの力も持っている。それに対抗しうるのが霊力を持った聖職者や、神様です。まぁ、神様にも色んな神様がいるけれどね」
春秋は苦笑いをした。
紗紀は自分が関わった妖怪達と、今回出会った天狗達を思い出して表情を曇らせた。
確かに良い妖怪ばかりではないとも思う。
「妖怪によっては人間を驚かす恐怖の気持ちを食べて生きてる者も居るんだ。だから一概に全ての妖怪が善ではない。人間全てが善じゃないのと同じように。そして神もまた……」
静かにそう教えられて、紗紀は納得した。
「あの、一つだけ……聞きたい事があります」
「何かな?」
「大天狗はどうして封印されているんですか?みんな“うるさかった”から、としか言わなくて。本当にそんなにうるさいだけで封印されたりするのでしょうか?」
「紗紀さんは……天狗は悪だと思いますか?」
「……それは……分かりません」
「天狗達も人間と同じく悪さをする者や徳を積む者が居ます。神通力と言って神と同格の力だって扱えてしまう。道を踏み誤れば、それはとても大きな痕を残す程の害を与える。天狗達は徳を積み、大天狗を目指します」
「ぇ……」
予想外な春秋の話に、思わず声がもれた。
「あはっ。意外でしたか?」
「……はい。じゃあ……なぜ……」
「彼は徳を積み、大天狗となった。それは誰よりも強い存在……。天狗達の憧れの的。けれど彼は過ちを犯してしまった」
春秋はその整った顔に暗く影を落とす。
「……過ち、ですか……」
「彼は人間の女性を愛していました。小さな村に住んでいて、森で迷っていた所を助けたのが、彼らの馴れ初めです。彼女はお礼のよもぎ餅を持って森に入り……再び迷子になりました」
(そんな複雑な森なのかな……?)
春秋はどこか遠くを見ていた。
それは、その日の思い出をまるで思い出しているかのようだ。
「彼は再び彼女を村へと返します。彼女はまたお礼をしに森へ入り、迷いました」
春秋はクスクスとどこかおかしそうに笑った。
「ええっ……!!……方向音痴、だったんですか?」
「あはっ。……たぶんね。それか……わざとか」
妖しく笑う春秋の表情に、紗紀は目を見開いた。
(わざと……?)
そうまでしてもう一度会いたいと思ったのだろうか。
「ついに大天狗はお礼は要らないから森に入らないように伝える。けれども、その後も彼女は何度も繰り返し、少しずつ彼との距離が近付いていった。それはそれは……怒鳴られるのも慣れっこになるくらい。次第にお互いが惹かれ合い、彼女は大天狗の子を身体に宿した」
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