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第十五話:拉致。

14拉致。

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「強く抑える、痛いかもだケド……我慢しろ。首は急所だから血が出やすいんだよな……。……何だよ」


じっとどこか不思議そうに白狼を見上げていた紗紀に、白狼は不機嫌そうに呟く。


「……白狼って変」

「あぁ!?なんだケンカ売ってんのか!?いくらだ馬鹿野郎!買うぞコラァ!」


凄みのある声で叫び散らすけど、なんだか全然怖くなかった。

それどころかいつもの彼で笑いさえ込み上げて来る。


「何笑ってんだよ!バカにしてんのか!?恐怖で頭イカれたんじゃねーの?」

「あはは。馬鹿になんかしてないよ。ありがとう」


紗紀の素直なお礼に、白狼は目を丸くした。

お礼なんて今まで生きて来た中で春秋くらいにしか言われた事がなかったからだ。


「ホント……バカかよ。俺様がこんな所に連れて来なけりゃ、オマエがこんな痛い思いしなくて済んだだろ」

「まぁ、それはそうかもだけど……。でも、助けに来てくれたんでしょ?」

「……」


白狼はそっぽを向くと黙り込んだ。

なんだかどうにも調子が狂う。


「白狼って、不器用だよね」

「はぁ!?」


突然貶されて、声を荒げれば、紗紀と目が合った。

彼女の笑顔を見たら、けなされたわけではないようにも思う。

春秋にも以前同じことを言われたのを思い出した。


「七曲さんを悪者にしない為に、あの日わざわざ私を呼び出して、ミタマさんに見つかるように仕向けたんでしょ?」

「はぁ?……いつの話してんだよ」

「それに……七曲さんが怪物になった時も、わざと優一さんを攻撃したふりをしたでしょ?白狼が悪い妖怪ならわざわざそんな事しないと思う。七曲さんが優一さんを傷つけたって知ったら、自分を責めてしまうから白狼がやった事にしたんだね」

「……」


隠しきれない証拠に、白狼は否定の言葉が出て来なかった。


「もしかして、あの薬も、本当は怪物になるって知らなかったんじゃない?七曲さんが強さを欲してたから純粋に手渡しただけ、とか」

「……確信はしてなかった。けど、そうかもしれない疑いがあったのは事実だ。アイツで証明しようとしたのもな」


そう、いつもの声のトーンと違ってどこか落ち着いた話し方をする白狼。


「初めからそんな風に話してくれたら良かったのに」

「俺様が何言ったって信じるワケねーだろ!」

「相手を見下して、意地悪言うより信頼出来ると私は思うけど」

「春秋とおんなじ事言いやがる」


むしゃくしゃしたのか、空いてる手で自分の髪をき混ぜる。

分かっていても、何百年、何千年とそんな風に生きていたら、変える事が難しい。

難儀な性格だと思う。


「白狼は、春秋さんの事はとても信頼してるんだね」

「アイツは……こんな口汚い俺でも理解して見捨てたりしねーからな」


(口汚い自覚あったんだ……)


彼には彼なりの生きてきた世界があるのだろう。

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