220 / 368
第十五話:拉致。
13拉致。
しおりを挟む彼は何食わぬ顔をして紗紀の目から額にかけて片手で鷲掴みすると、紗紀の耳元で囁く。
「アタシ、見ちゃったの。アンタ、あの白狼ちゃんの連れでしょ?フフフッ。アンタをぐちゃぐちゃにしたら、アノ子、どんな顔するかしらね」
「……たぶん、全く気にしないと思います」
気にかけてもらえる程、白狼と接点は無かったと紗紀は思う。
顔面を掴むその腕は男らしくて力強い。
ここからどう逃げ切るか心拍数が上がっていく中、思考を凝らす。
「それは、どうかしらね?試してみましょうか」
ニヤリと口を歪めた彼は、紗紀の首筋に齧り付く。
喉を食いちぎらんばかりに牙を立てられて、絶叫した。
「痛たたたたたたッ!?ちょっ!ヤダ!!誰か!!!」
空いている手で力いっぱい彼を殴りつけるけれどびくともしない。
七曲に吸い付かれたそれとは微塵も違う痛み。
皮膚が食いちぎられ、熱い液体が流れ出ているのが分かる。
血だろう。
暴れ続ける紗紀の手首を片手で掴み上げると、そのまま紗紀の頭上に縫い止めた。
涙を溜めて怯える紗紀を見下ろして、舌なめずりをする天狗。
(怖い……!助けて、サグジさん!)
ガンッと荒々しい音が室内に響いた。
紗紀を見下ろしていた天狗はゆっくりと視線を障子戸へと向ける。
「オイ!雌豚。何してやがんだテメェ!」
(この声は……白狼?)
「フハハハッ!登場が遅すぎるデショ?そんなに大事なら首輪でも付けて連れて歩きなさいよ!」
ドスドスと荒っぽい足音を立てて近づいて来た白狼が、右側から蹴りを繰り出すも、その男は左に転がるように避けた。
「俺の女じゃねーっつーの!この見当違いバカ!ばーか!やーい!」
(なんて子供の言い争いだろう)
紗紀は血の止まる気配の無い首筋をギュッと強く抑え、助けに来てくれた白狼を視界に入れるとほっと安堵した。
「アンタのオンナじゃない?じゃあ……本当に春秋様の?」
血相を変えたその天狗はガタガタ震えると、一目散に部屋から飛び出して行った。
春秋さんよりよっぽど白狼の方が怖いと思うのに、紗紀には不思議でならない。
「オイ、大丈夫か?」
ぎこちなく差し出されたその手を、紗紀は掴む。
白狼が引っ張って起こしてくれた。
首筋から流れる血を見て、どこか動揺しているように見える。
変なの、と紗紀は思った。血なんて見慣れてるだろうに、と。
「見せてみろ」
「いや、でも……」
「いいから」
「ちょっと……!」
避難の声を上げるも、白狼の力には敵わない。
腕を掴まれて剥がされれば、白狼はその瞳を見開いた。
「アイツ……食いちぎりやがったのか!?」
普段より低く、地を這うような声音で唸る白狼に、紗紀の肩が跳ねた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる