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第十五話:拉致。
13拉致。
しおりを挟む彼は何食わぬ顔をして紗紀の目から額にかけて片手で鷲掴みすると、紗紀の耳元で囁く。
「アタシ、見ちゃったの。アンタ、あの白狼ちゃんの連れでしょ?フフフッ。アンタをぐちゃぐちゃにしたら、アノ子、どんな顔するかしらね」
「……たぶん、全く気にしないと思います」
気にかけてもらえる程、白狼と接点は無かったと紗紀は思う。
顔面を掴むその腕は男らしくて力強い。
ここからどう逃げ切るか心拍数が上がっていく中、思考を凝らす。
「それは、どうかしらね?試してみましょうか」
ニヤリと口を歪めた彼は、紗紀の首筋に齧り付く。
喉を食いちぎらんばかりに牙を立てられて、絶叫した。
「痛たたたたたたッ!?ちょっ!ヤダ!!誰か!!!」
空いている手で力いっぱい彼を殴りつけるけれどびくともしない。
七曲に吸い付かれたそれとは微塵も違う痛み。
皮膚が食いちぎられ、熱い液体が流れ出ているのが分かる。
血だろう。
暴れ続ける紗紀の手首を片手で掴み上げると、そのまま紗紀の頭上に縫い止めた。
涙を溜めて怯える紗紀を見下ろして、舌なめずりをする天狗。
(怖い……!助けて、サグジさん!)
ガンッと荒々しい音が室内に響いた。
紗紀を見下ろしていた天狗はゆっくりと視線を障子戸へと向ける。
「オイ!雌豚。何してやがんだテメェ!」
(この声は……白狼?)
「フハハハッ!登場が遅すぎるデショ?そんなに大事なら首輪でも付けて連れて歩きなさいよ!」
ドスドスと荒っぽい足音を立てて近づいて来た白狼が、右側から蹴りを繰り出すも、その男は左に転がるように避けた。
「俺の女じゃねーっつーの!この見当違いバカ!ばーか!やーい!」
(なんて子供の言い争いだろう)
紗紀は血の止まる気配の無い首筋をギュッと強く抑え、助けに来てくれた白狼を視界に入れるとほっと安堵した。
「アンタのオンナじゃない?じゃあ……本当に春秋様の?」
血相を変えたその天狗はガタガタ震えると、一目散に部屋から飛び出して行った。
春秋さんよりよっぽど白狼の方が怖いと思うのに、紗紀には不思議でならない。
「オイ、大丈夫か?」
ぎこちなく差し出されたその手を、紗紀は掴む。
白狼が引っ張って起こしてくれた。
首筋から流れる血を見て、どこか動揺しているように見える。
変なの、と紗紀は思った。血なんて見慣れてるだろうに、と。
「見せてみろ」
「いや、でも……」
「いいから」
「ちょっと……!」
避難の声を上げるも、白狼の力には敵わない。
腕を掴まれて剥がされれば、白狼はその瞳を見開いた。
「アイツ……食いちぎりやがったのか!?」
普段より低く、地を這うような声音で唸る白狼に、紗紀の肩が跳ねた。
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