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第十五話:拉致。
07拉致。
しおりを挟む紗紀は体勢を整えると白狼を睨みあげる。
「お。いいねぇ、その顔。たまんねぇ~。けーど。時間が待ってはくんねぇんだ、わ!!」
語尾を強めたかと思えば、御札を取り出そうとする紗紀を勢いよく押し倒した。
そのまま馬乗りになると、声が出せないように猿轡をする。
暴れる紗紀の両手首を掴み、懐から紐を取り出し、縛り上げた。
テキパキと事を成し得ると、白狼は紗紀を横抱きにして持ち上げる。
そうして先程蹴破った場所から、羽を広げて飛び立った。
ぐんぐんと風を切り空高く舞う。
誰も届かないだろう場所まで来ると、白狼はスピードをふっと緩めた。
「おーい大丈夫か?呼吸出来てんの?」
不意に心配になって、白狼は紗紀の顔を覗き込む。
紗紀はこのままではマズイと唯一自由な足をバタつかせた。
「オマエ落ちる気か?ここから落ちたら痛いだけじゃ済まねーぜ?」
ぐいっと下を見せる。
地上から随分と離れていて、まるで飛行機から見下ろしてるようだ。
ゾクリと背筋が凍て付く。
「そーそー。大人しくしておくのが無難だぜ?」
ニシシッと歯をむき出しにして白狼は笑った。
「さぁ、楽しい空中散歩でもしようか。ご主人サマ」
◇◆◇
一方その頃、紗紀の部屋から凄い物音が聞こえて、ミタマは慌てて部屋へと引き戻っていた。
けれど、部屋に紗紀の姿は見当たらない。
乱暴に蹴破られた障子戸から、何かあったのは一目瞭然だ。
ミタマは紗紀の傍を片時でも離れた事を悔やんでいた。
紗紀がどこか不安げに自分の服の袖を握って引き止めた事が脳裏をちらつく。
灯の狛犬であるキシマに目を離すなと助言されていたのに、と、握る拳に自然と力が入った。
目を閉じて紗紀の気配を探る。
この敷地内には、まったくと言っていいほど気配が感じられない。
(一体誰が……)
思い当たるのは一匹だけだ。
こんな事をするのは白狼じゃないだろうか。
ヤツはあの日、消え去った。
自分の札を持って。
ならば紗紀の居るこの神社に気配無く入って来られたのも納得がいく。
つまりはまだ、あの御札は破らず彼の手元にあるのだろう。
そう思い当たった所で、白狼の住処など知りはしない。
それが余計に腹立たしかった。
『おい!何かあったのか!?返事をしろ!!』
タブレットから何度も声が聞こえる。ミタマは深く息を吸い込むと機械越しに応答した。
「……紗紀が、攫われた」
『はぁ!?誰に?』
想像し得なかったミタマの返答に、電話先の楓は声を荒げる。
「紗紀が使役した妖の一匹、木葉天狗にだよ」
『木葉天狗って……、色々知ってそうなあいつか。紗紀からも話しは聞いた。そいつがあいつをさらう目的は?』
「たぶん、木葉天狗の本当の主と会わせる事だよ。話しをしたがっていたらしいから」
『それってさ、敵なわけ?味方?』
楓には木葉天狗が何を考えているのかさっぱり理解出来なかった。
「……分からない。けれど、神社の封印を解いて大天狗を解放しようとしてるのは確かだよ」
『その観点で行くと政府側とは敵だな。でも……政府が俺たちの味方ってわけでも無さそうだし』
「……」
ミタマは押し黙る。
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