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第十四話:ウカノミタマ。
17ウカノミタマ。
しおりを挟む「ふふっ。やっと俺の名を呼んでくれたね、紗紀」
ミタマの手が紗紀の頬を撫でる。
いつもひんやりと冷たい彼の手が珍しく熱い。
「あのっ……」
「好きだよ、紗紀」
「……っん!?」
触れるだけの口づけが、噛み付くように啄まれる。
何度も口づけを交わしながら、次第にそれは深くなって、舌が入り込んで来た。
いつも以上に熱を孕んでいて、ただでさえ痺れが抜けていないというのに、指先に甘い痺れが迫り上がる。
止めなければと思うけれど、流されてしまいそうだ。
指先に力を入れても繋がれたミタマの手はビクともしない。
息苦しくなって、やっと唇が解放されたかと思えば、今度は首筋に口付けが落とされた。
そして突然歯を立てられてビクリと体が硬直する。
「痛ッ……!?」
血が出る程では無いけれど、確かに首を噛まれているのが感じ取れた。
今なら草食動物が肉食動物に首を噛みつかれる恐怖が分かるかもしれない。
ドクドクと鼓動が恐怖心を煽るように脈打つ。
まるで時が止まったかのようだ。
(怖い)
脳裏を過るのは、あの日七曲や白狼に首筋を噛まれた事だ。
その時と同じ場所で、思わず体が硬直してしまう。
体に再びミタマの体重がかけられたかと思えば、首筋に顔を埋めたまま噛んでいた口を離す。
「……キミはどうして、誰にでも直ぐに心開いて警戒心も無くその体に触らせるんだい?」
「触っ!?」
予期せぬミタマの問いに、狼狽える紗紀。
突然何を言い出すんだと紗紀は思った。
「紗紀はみんなに平等に優しくて、俺だけを……見てはくれない」
「サグジ、さん?」
「キミはたくさん言葉をくれて、あの時本当に凄く嬉しかったんだ。選ばれたような気になって。けれど、本当はみんなにも同じ事言ってるんじゃないかって思う事もある」
(これは、本当に酔っているのかな?)
いやむしろ、酔っているからこそ口に出来た本音の部分なのかもしれない。
その言葉がなんだか無性に悲しくて、腹立たしい。
確かに自分が招いた愚かな部分は多大にある。
(それでも、自分はこんなにもサグジさんしか見ていないのに、それがなぜかしっかり伝わっていなくて悲しい。悔しい)
「……私、は……確かにみんな大好きです。だけど、私は。他の誰よりもあなたを、サグジさんを特別に見てますよ」
「言葉なんていくらでも繕えるよ」
「……っ」
そう、いくらでも。
何とでも言える。
例え思っていなくても。
その気にさせるのは簡単だ。
だからこそ言葉では無い確かな形が欲しかった。
実感したかった。
誰かの一番で在りたいと願う事は罪なのだろうか。
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