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第十四話:ウカノミタマ。

11ウカノミタマ。

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「ふふっ。だから兄様をからかいたくもなるの。ごめんなさいね?」


その言葉で頬にキスされた事を思い出して頬に手を当てた。

真っ赤に頬が染まる。

そんな紗紀を見てウカノはまたクスクスと笑った。

からかい甲斐があるのはどうやらミタマだけじゃ無いようだと、紗紀の反応を見てウカノはたのしげに思う。


「……その、仲の良い兄妹なんですね。羨ましいです」

「ええ。ありがとう。貴女はご兄弟は?」


紗紀は緩く首を振った。

何かを察するようにウカノは話を変える。


「けれど、うちの兄様で良いのかしら?」

「それは、どう言う意味ですか?」

「ほら、何て言おうかしら……。その、妖、だし。貴女まだ若いみたいだから。ご両親も納得しないんじゃないかしら……」


手を擦り合わせてどう言葉を選ぼうか悩みながら口にするウカノに、紗紀は困ったように笑って視線をらす。


「私、身寄りがないんです。一人だから……ミタマさんの傍に居ることが許されるなら傍に居たい、です」

「……そう、なのね。ご両親に許されない恋愛はさぞかし辛いだろうと思ったけれど、それなら安心ね。私たちが祝福出来るもの!」


ウカノが明るくはげますようにそう言った。

紗紀は彼女の言葉に許された気がした。

ここに居ることを。

共に在る事を。


◇◆◇


こうして着実に宴の準備が進み、たった四人しか居ない休憩所でふすまを開け広げ、広く繋がった部屋での宴会が始まった。

ミタマはどこか不服そうで機嫌が悪いように思う。

それもそのはず、こんなに長く紗紀から離れていた事が最近はほとんど無かった故にウカノから紗紀を奪われたような気分だった。

要するにねているのだ。

ウカノがひざまずき障子を開く。

それに合わせてミタマが土下座をするように綺麗に頭を下げた。

紗紀もそれに合わせて頭を畳に付ける。

衣擦れの音とがして、畳のわずかにきしむ音が室内に響いた。


「面を上げよ」


ウカノの指示に従い、すっと顔を上げる。

少し段のある場所に赤く品のある座布団ざぶとんいてあり、そこにゆるりと腰をかけ座っているウカノミタマが視界に入る。

目の前には食膳しょくぜんがそれぞれに置かれていた。

ウカノミタマは満足そうにそれを見た後にミタマへと視線を送る。


「さて、今宵こよい無礼講ぶれいこうと参ろうではないか。楽しい話を聞かせておくれ。ずっとこの地に居続けた其方にとって初の外界だが、どうであった?」

「己がいかにせまき世界にとらわれていたのか身にしみました」


情けなく耳も尻尾も垂らすミタマに、ウカノミタマは声を上げて笑った。

それからもずっとミタマとしか会話をしないウカノミタマ。

紗紀はどこか疎外感そがいかんを感じており、それにミタマも薄々気づいていた。


「あの、ウカノミタマ様。紗紀は……」

「口を閉じよ。其方そなたわらわの問にのみ答えていれば良い」


あからさまに拒絶をされて、紗紀の体が震えた。


「震えておるな。席を外しても良いのだぞ」


それは遠回しに出て行けと、そう言われているように感じる。

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