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第十四話:ウカノミタマ。
10ウカノミタマ。
しおりを挟む紗紀は慌てて頭を下げた。
「何かしていないと気持ちが落ち着かなくて……その。出来る事があればやらせてください」
必死に頼む紗紀に、ウカノは何かを察したのか手招きをする。
紗紀の肩に手を置き、腰に腕を回すとミタマに対して追い払うようにしっしっと手を振ってみせた。
「ここは狭いから兄様はどこか行ってください」
「ええっ!酷い。……何か余計な事を吹き込むつもりじゃないだろうね?」
「吹き込まれたら困るような事があるのかしら」
ウカノは頬に手を添えるとほうっと溜め息を吐き出し視線を床へと落とす。
「有る事無い事言わないでくれ」
「有る事は言っても大丈夫でしょう?ふふっ。冗談よ。せっせと準備に邁進します。兄者は漬物でも漬けていてくださいな」
ウカノはそう言うとしゃがんで床下から壺を取り出しミタマに押し付けた。
ミタマは渋々それを受け取る。
そこで紗紀はふと思い出す。
「そう言えばミタマさんの漬けるお漬物とっても美味しいですよね!」
紗紀が嬉しそうにそう言えば、ミタマもまた思い出した。
「そう言えば紗紀、漬物の漬け方を教わりたいと言っていたね。今なら時間もあるし教えられるよ。おいで」
ミタマがそう呼ぶけれど、ウカノがするりと紗紀の腕に自らの腕を絡める。
「紗紀さんには私のお手伝いを頼むんです。だから兄様はあっち行ってください」
「久しぶり帰って来た兄に随分な物言いだね。そろそろ本気で落ち込みそうだよ」
そう言うミタマの耳も尻尾も垂れ下がっていた。
なんだかその姿が哀れで紗紀はなんとも言えない気持ちに駆られる。
ミタマは渋々壺を持って部屋を後にした。
ミタマが出て行ったのを確認するとウカノが紗紀を見る。
「それじゃあ始めましょうか。準備を」
「はい」
ウカノは紗紀にテキパキと指示を出し、自分の仕事も着々とこなしいていく。
とても手慣れていて紗紀は感嘆の声を胸の内であげた。
(凄い)
料理が完成する度に味見を求められて味見をする。
どの料理もとても美味しくてそれでいてどこか知ってる味がした。
「……あ、この味付け。……ミタマさんの料理と同じだ……」
紗紀が小さくそう呟くとウカノがにっこり微笑む。
「兄様とは妖になり動ける身体を得てからここで料理にお掃除と家事炊事をこなして参りました。ウカノミタマ様の手足の代わりに、細やかな事までそれはもう忙しくも楽しい日々だったわ……」
ウカノはその当時を思い出すように遠くを見つめた。
そんなウカノの横顔を見て紗紀は思う。
本当に彼女とミタマは瓜二つだと。
そしてお互いがとても大切なのだと、ここでウカノミタマと三人で暮らす日々が大好きだったのだと伝わる。
「だからわたし、兄様が貴女を本気で好いてると知って嬉しく思ったのよ」
「え……?」
(嬉しく?)
理解が出来ずに首を傾げた。向けられた視線は優しくて、朗らかな微笑みに思わず見惚れてしまう。
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