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第十四話:ウカノミタマ。

01ウカノミタマ。

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目が覚めると紗紀は、隣で眠るミタマをまどろみの中ただただ眺めた。

真っ白なまつ毛が綺麗だ。

そんなまつ毛に負けずおとらず陶器のようななめらかで純白の肌。

思わず手を伸ばして触れれば擦り寄られて、ビクリと肩が強張こわばる。


(やっぱり起きてた)


最早もはや想定内である。

ミタマは紗紀の腕を掴んで指先、手のひら、手の甲へと口付けをする。

それがくすぐったくもあり、みょうじれったくもある。

唇を当てられた個所かしょが熱を持って指の先までじんわりとしびれるような感覚が広がるのが分かった。


「おはよう、紗紀」

「……っ、ミタマさん……」

「なんだい?」


どこか愉しげにクスクス笑うミタマに、紗紀はなんだか面白くない。

振り回されっぱなしなのはしゃくだ。

紗紀は掴まれたままの腕を引き寄せると、ミタマのその手を両手で包んで口付けをして返してやった。

必死に目をつむるその姿がむしろ愛らしく、ミタマは思わず彼女の額に口付けを落とす。


「……っ!?」


困惑して何かを言いかけた紗紀の唇を直様塞いだ。

ミタマの耳がピクリと反応を示す。

誰かがこちらへと向かって来る足音がする。

それと同時に唇を離すとそっと紗紀から離れた。


「ミタマさん……!」


怒りというよりは恥ずかしさの頂点に達して、少し怒り口調で彼の名を呼ぶ。

けれど彼はしーっと自分の口元に人差し指を当てて静かにするよううながした。

思わず紗紀はまばたきを繰り返す。  
   
すると不意にバタバタと慌ただしい足音が耳に届いてハッとした。


「紗紀お姉ちゃーん!!」


叫び声と同時に開く障子。

入って来たのは化け狸のマミだった。


「……ごめん起こしちゃった?」

「ううん。起きてたよ。おはようマミちゃん」


布団をたたんでる紗紀を見ながら、マミが申し訳無さそうにしている。


「おはよう」


ミタマは壁に寄りかかってあぐらをかいていた。

暇そうなミタマを見つけてマミが思い出したように叫ぶ。


「そうだ!大変なの!あの白狼のバカチンが居なくて!どこ探しても見つからなくて……!嫌な予感しかしないよ……!」


分かりやすくオロオロするマミに、ミタマは昨夜の事を思い出していた。

確かに昨夜白狼は自らの翼で空を飛び月の彼方かなたへと消え去った。

居ないという事には納得している。

そして多分、本来の主の元へ帰ったのだろう。

紗紀が使役しえき出来た事から、本来の主からは使役されていない事は見て取れた。

そして今頃、紗紀やここでの事を話しているに違いない。

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