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第十三話:灯と楓。
11灯と楓。
しおりを挟むお風呂に入り、部屋に戻るとそこにはミタマが居た。
「お疲れ様、紗紀」
「お疲れ様です」
「キミの事が気がかりでね。待たせてもらった」
ミタマの言葉に紗紀は何とも言えない表情をして、彼の前に座った。
「泣きませんよ」
「分かっているよ」
彼女はいつだって人前で涙を見せないようにと、気を張っている事をミタマは知っていた。
「妖力補給をしておこう。馴染んできてるとは言え完全じゃない。それに、今日は割と力を使い過ぎたと思う」
「……そう、ですね」
色々起こりすぎて気落ちしている紗紀の頬に触れる。
少し前まではこれくらいの事で狼狽えていたはずなのに、慣れて来たのか、ただ疲れているのか、紗紀はゆっくりと目を閉じた。
そんな彼女に唇を寄せる。
妖力を送り込むと、それ以上の事は一切せずに体を離した。
「いつも言っているけど、思ってること、何でも話してくれていいんだよ。我慢だけはしないで」
ミタマのその言葉に目頭が熱くなるのが分かる。
一つ、弱音や不安を口にしてしまったら、今張っている虚勢すらも崩れてしまいそうで、弱い自分に成り下がりそうで怖くて仕方がない。
強くてカッコイイと尊敬していた灯ですらあんなにも精神的に追い詰められてしまったのだから、無理もない。
ミタマや、ここに居るみんなが居なければ紗紀だって灯と同じ様に逃げ出していたかもしれない。
「ミタマさん……少しだけ、甘えてもいいですか?」
「どうぞ」
ミタマはそう言うと両手を広げた。
それがなんだか少しだけおかしくて、口元が緩む。
紗紀は招かれるままに彼の胸に寄り添った。
ギュッと抱きしめてもらえると、とても安心してうとうとしてしまう。
随分心労が溜まっているようだ。
ミタマは何も言わずにその背を撫でた。
しばらくすると小さな寝息が聞こえてきた。
突然の優一の死に、政府の裏切り、友として尊敬していた灯の辞退、目まぐるしく流れていく環境に、紗紀はどれ程不安で心細い思いをしているのだろうか。
ミタマはただ側に居ることしか出来ない自分が歯がゆくて仕方がなかった。
ミタマは紗紀を布団に寝かせると、そっと部屋を後にした。
溜まった疲れのせいか、深く眠りに落ちてしまい紗紀は気付かなかった。
ミタマが出て行ってしばらくした頃、そろりと戸が開いた事に。
戸を開けたのは白狼だった。
部屋の中を見渡した後、ミタマが居ない事を再度確認する為、廊下を右左と見てからそっと戸を閉めた。
「布団くらい被って寝ろよな……。風邪引くぞ」
いつの間にか掛け布団を剥いで大の字になって寝ている紗紀。
掛け布団を下敷きにして寝ている紗紀を起こさずに、掛け布団のみを引き剥がすのは困難だ。
白狼は溜め息を吐き出して、自分の羽織って居た羽織をそっとかける。
そして、紗紀の懐から御札を取り出す。
彼女がそこから御札を取り出す姿を何度も目にしていたから場所は把握していた。
パラパラとめくってその一枚を取り出し、自分の懐へとしまう。
残りの御札を紗紀へと返し、早々と部屋を出た。
「……白狼。そこは紗紀の部屋だったと思うけど?何をしてたんだい?」
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