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第十三話:灯と楓。
10灯と楓。
しおりを挟む「お伝えするようにと言われたのはここまでです。どうかご武運を」
「ありがとう、ございます」
どちらにせよ、ここで生き抜かなければ未来は無い。
そう改めて確信させられた。
「ミタマさん、戻りましょう。私達の神社へ」
ミタマの手を強く握り返し、紗紀は笑顔を向けた。
どうしてこんな場面で、笑顔でいられるのだろう。
キシマは興味深げに紗紀を観察する。
あのしっかりとした灯でさえ、不安に耐えきれなかったのだ。
彼女に比べれば、紗紀の方がどこかか弱さを感じる。
それなのになぜ、先行きの見えないこの戦いに居残れるのだろう。
「キシマ、ありがとう。俺らは戻るよ。キミも、ご武運を」
「ええ」
拝殿から消えていく二人をただ呆然と見送った。
辺りに視線を向ける。自分の居た神社と同じ景色。
けれど過ごした時間は短く、物悲しくも楽しいものだった。
◇◆◇
ミタマと紗紀が神社に戻ると、こちらはこちらで戦いの最中だった。
急いで応戦する。
「みんな無事ですか!?御札使います!」
「紗紀ちゃん!」
「任せたよ」
疲労困憊の色が見えて、紗紀は御札を使う決心をした。
今まで躊躇したばかりに何度も危険な目にあって来た。
後で後悔をしたくないと強く思う。
まだあまり使っていない御札は水の御札だ。
紗紀は青色の御札と雪女の御札を手に取った。
雪女に変化し直すと青色の御札を構える。
(この方法はどうかな?)
何となく湧いたイメージを試してみる事にした。
「水神よ我が意思に力を急急如律令!」
怪物達のみを大量の水で濡らし、そして手をかざす。
「なるほどのう。妾も加勢しよう。舞え、乱れ吹雪!」
「舞え、乱れ吹雪!」
雪音と紗紀の掛け声と共に水分は氷へ変わり、全身ずぶ濡れの怪物達をカチンと氷漬けにした。
(食い止められた?)
今のところ怪物達の動きは無いように見える。
紗紀はふぅと大きく溜め息を吐き出した。
「やったな、紗紀」
雪音が紗紀を抱きしめる。
底冷えするほど冷たい。
けれども、心からホッとした。
「雪音さんが手助けしてくれたお陰です」
「紗紀ちゃん、お帰り~。お疲れ様。ねぇ、姐さん?紗紀ちゃん凍えちゃうからそろそろ離してやって?ほら、唇真っ青だから」
七曲が苦笑を漏らすと、雪音から紗紀を剥がす。
「ご無事で良かったです。他の皆さんは?」
「一応みんな無事だよ~」
にっこり笑って七曲が指差す方へと視線を向けた。
みんなどこか疲れ切っているように見える。
(間に合って良かった)
「お疲れ様です。みなさん」
「……引き止めるのが精一杯だったよ。紗紀お姉ちゃんごめん」
紗紀の問いかけに呼吸を整えながらユウリが謝罪する。
紗紀は首を横に緩く振った。
「……片しておく予定だったんだがな」
「そーそー!人数多過ぎだし力も増し増しだしで攻撃食らわねぇしさァ。なぁなぁ、そろそろマズイ所まで来たと思わねぇ?」
九重がどこか残念そうにそっぽを向く。
それに対して白狼はどこか元気そうで、けれど力の足り無さを仄めかす。
紗紀も正直感じていた。
今や御札を使わなければ太刀打ち出来ない状態だ。
それはつまり、御札の使用制限数が勝てる回数だと言っているのと変わらない。
「紗紀。少し休んだ方がいい。今日は割と普段以上に力を使っているよ」
「休める時に休め」
ミタマが不安そうに顔を覗き込んで来て、紗紀は我にかえる。
背中を押すように九重もその身を案じて休むよう促した。
また始まる戦いに向けて少しでも休んだ方がいい。
紗紀は頷くとみんなに労りの言葉をかけて部屋へと向かった。
◇◆◇
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