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第十三話:灯と楓。
03灯と楓。
しおりを挟む「優一?優一ならば凍らせてあるよ」
どこを探しても見当たらず、雪音にそう聞けばサラリとそう告げられて唖然とする。
「……凍らせ……」
状況が全く想像出来ない。
(どういう事!?)
「ここで燃やして灰にしてしまうのもどうかと思うてな。ここは、現し世ではないのじゃろう?いつ取り壊されるかも分からぬ世界に置いてゆくのはあんまりではないか」
「確かに、そうですね」
「じゃけど、このまま放って置けば腐敗が進み異臭もするじゃろう?」
「う……」
まさにその通りだ。
雪音の対処は的確だったと思う。
「戦いを終えたら改めて彼が安らかに眠れる場所を探そう」
ミタマに肩を叩かれて、紗紀は頷き返した。
きっと、優一の狛犬だって彼の帰りを待っているはずだ。
伝えて謝らなければならない。
(それはそうと……)
雪音はお酒を出したり、化け狸達はおむすびを結んだりと何かを始める準備をしていた。
「今から何を……」
「何を?そりゃあアンタ決まっておるじゃろう?仏さんがしっかり旅立てるように宴会を開くんじゃよ」
「宴会……」
正直言ってそんな気分ではない。
優一さんの気持ちを考えれば考える程、気持ちがざわざわとして胸が苦しくなる。
「泣いて別れを悲しむもんじゃない。笑って送り出すもんさ。アンタのおかげで助かったって。感謝の意を込めるのじゃ」
(感謝……)
雪音の言葉に先程まで暗く悲しみにくれていたはずが、すっと明るくなった気がした。
雪音はほらほらと紗紀の背中を押す。
「みんなを集めて仏さんの成仏を願うよ」
「……はい!」
きっと場違いだっただろう。
みんなで酒を酌み交わし、美味しいものを食べて騒ぐ。
紗紀は未成年なので杯に口を付けるだけで終え、そっと席を立った。
凍らされた優一は彼が部屋として使っていた場所に横たわっているらしい。
部屋の前には摘んできたのだろう花が置いてあり、その横にはおむすびを乗せた皿にお酒も置いてあった。
ここで優一がどれ程好かれていたのかが伺える。
ピンチの時に彼が助けに来てくれた事を思い出す。
(生きていて欲しかった)
今より苦しい思いをしたかもしれない、ただの押し付けでエゴに過ぎないかもしれない。
それでも、本音を言えば生きていて欲しかった。
顔を覆って泣く紗紀の肩をぽんぽんとミタマがあやす様に叩く。
紗紀は慌てて袖で涙を拭うと笑顔を向けた。
「……いけませんね。ついつい……。ここに来て良く泣くようになったなぁ」
「それだけ、我慢して来たんだよ。心許せる者に出会って弱さもさらけ出せるようになったんだ。悪い事じゃない」
ミタマの言葉に、ああと思う。
(そうか。そうなのかもしれない)
ずっと気を張って生きてきた。
誰にも話せなかった。
それは心を開いていなかったんだ。
「……本当、その通りだと思います」
環境の変化は人を変える。
強くも弱くもする。
良くも悪くも。
◇◆◇
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