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第十二話:戦友の死。

14戦友の死。

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けれど、なんの痛みも感じられず、目を見開いた時には目の前で鮮血が舞った。

黒い腕が、目の前に立ちはだかる優一の体を何本も何本も貫いていた。


「え?……うそ」


息が、出来ない。

瞬間、ふ、と視界が真っ暗になった。

腕が消えてドサッと優一が横たわる。

震える足で歩みより彼に触れた。

浅いけれど呼吸はしている。


「御、札……。御札!!御札!!」


懐から取り出す。

バサバサと溢れ落ちて御札が地面に何枚も散らばった。

無いのだ。

使い果たしてしまったのだ。

癒しの御札は。


『紗紀ちゃん。みんなを保護したんだけど……。攻撃する御札って使えそう?』


七曲の声がして我にかえる。

悩んでる暇はもう無い。

今はそれどころじゃない。

紗紀はちょうど握っていた最後の一枚の黄色御札を握りしめた。


「使えます。大丈夫……」


早くこの戦いを終わらせたい。

目尻に涙が溜まった。紗紀の返事に七曲は外に出る空間を開けた。

急いで外に出て御札をかざす。


「雷神よ我が意思に力を急急如律令!」


雷が身震いしそうな程に鳴り響く。

けたたましい音と、地響きで体が揺れた。

土煙が落ち着くと、キィキィとした悲鳴と共にモゾモゾと怪物がうごめいていた。

焼け焦げた匂いが辺り一面から漂って吐き気がする。

いつもならこれで終わりのはずなのだ。

けれど今回はそれでも尚、攻撃を繰り出してくる。


「紗紀ちゃん!!戻って!!」

「……っ、火神よ我が意思に力を急急如律令!」


紗紀は懐に残っていた赤い御札を取り出すと、もう一度叫ぶ。

豪快に燃え広がり今度こそ怪物は炭と化した。

七曲には今まで紗紀は怪物であろうとどこか可哀想に思っている節があった。

そして悲しげに戦う姿も、どうにかならないか悩む姿も戦闘の最中垣間かいま見ていた。

けれど鬼気迫るその表情に何か非常事態が起きたのだと悟る。

術を解くと紗紀は迷いもなく走り出した。

その先に居たのは優一だ。

倒れ込む彼の周りには血が広がっていた。

一目でもう助からないと分かる。


「ごめんなさい。……ごめんなさい!!」


紗紀は優一の傍にひざまずくと土下座をして深く深く謝った。

土に額を付けて謝罪する姿は昨夜の出来事を彷彿ほうふつとさせる。

半分閉じかけた瞳で紗紀を見つめると優一はゆっくりと手を伸ばした。

彼女の髪に触れる。

サラサラとした手触りを感じながら、目の端に涙をめて笑った。


「やめて。……昨夜を思い出す」


その言葉にハッとして紗紀は顔を上げた。

ボロボロと泣く紗紀と、泣きそうに笑う優一がしばし見つめ合う。

優一がそっと手を伸ばして紗紀の頬を撫でた。

ビクリと目を閉じる紗紀の目尻をぬぐう。


「……泣かない、で。……これで良かった」

「良くないです!良くないです!!全然っ……!!」


優一のその手を握ると、声を荒げてぶんぶんと紗紀は激しく首を左右に振った。

優一はその様子を見ておかしそうに笑う。


「……きみに、好かれてみたかった……」

「……ゆ、いちさん……」


ギリギリと心臓を締め付けるような痛みがした。

申し訳無さが込み上げて来る。



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