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第十二話:戦友の死。

06戦友の死。

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「首じゃなくても指先とか……」

「そういう問題じゃないんだよ紗紀。お願いだから」


ミタマの必死の懇願こんがんに思いとどまらざるを得ない。


「……そう言えば一番初めの頃、私の血で化け狸のみんなは正気に戻りましたよね?あの時はどうして力が目覚めなかったんでしょう?」


確かに最初は自分の血で化け狸達が我にかえった。

その後はミタマからだったけれど。

今思うと不思議だ。


「あの時はまだ紗紀に妖力が馴染んでいなかったからだよ」

「……なるほど」

「それに力を与えるにはお互いの信頼関係が必要だよ。でなければ誰でも紗紀から力を貰えてしまうだろう?」

「そうなると紗紀ちゃんが狙われちゃうね」


その話を聞いてゴクリと喉がなった。

確かに恐ろしい事になりかねない。

前々から言霊は大事だとミタマから言われてはいたけれど、こういう時にでも気持ちと言うものは作用するものなのだと紗紀は学んだ。


「妖力を持った人間って、半妖みたいな扱いになるんですかね?」


昨夜、優一に言われた言葉を思い出していた。


「どちらかと言えば、聖職者に近い存在になるよ」


ミタマは安心させるように笑う。


「まぁ、他の人間とは違うのは確かかな。特に紗紀ちゃんの場合、攻撃性のはらむ力を持っているからね。人によっては恐れたり、それこそ悪用しようと目論む人も出てくると思う」


七曲は、話しながら紗紀の表情が曇るのに気がついた。

ミタマから鋭い視線を投げつけられてアワアワと言葉を探す。


「あ、ほら!でも、普通に生活してれば傍目から見て分かるものじゃないし大丈夫じゃない?」


深刻な表情をする紗紀に七曲はあっけらかんと言葉を発した。

そんな七曲を見て驚いたように瞬きをする紗紀。

確かにその通りだと思う。


「あの、どうして半妖だった安倍晴明さんは人間から疎まれたりしたんですか?」

「それは、彼があまりに巨大な力を持っていて、それを人間界でも使っていたからだよ」


「そうだねぇ、それをお仕事として使ってたしね~。そんな大きな力見せつけられたらさ、彼に付くか、阻害するかのどっちかになるよね。巨大な力ってほら、怖いし」


二匹の話を聞いて、紗紀の心は少し軽くなった。

公にしなければ、普通に生きていく事は全然可能なんじゃないかとそう思う。


「少しホッとしました。ありがとうございます」


そんな紗紀の様子を見て、ミタマも七曲も小さく微笑ほほえんだ。


「さて、七曲さんもお元気そうですし、今度は白狼から話を聞きましょうか」

「え、紗紀ちゃんロウちゃんのとこ行くの?」


七曲が紗紀の肩を掴み引き止める。

その手をミタマがじっと見れば、慌てたように七曲は手を離し降参でもするかのように両手を上げた。


「白狼が一番情報を持ってると思うので。……って七曲さん何してるんですか?」

「アッハハ~、何でもない。でもそっか。それならボクもついてこうかなぁ。気になる事もあるし」

「気になる事?」

 
 ◇◆◇

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