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第十一話:七曲。
18七曲。
しおりを挟む『無事に、収束したみたいだよ。戻すね……』
ふっ、と視界がブレたかと思えば、すっと暗闇から見知った神社へと様変わりする。
そんな紗紀達の元へ青年が駆け寄って来た。
「良かった。無事だったみたいだね」
「優一さん……。本当にありがとうございました。でも、どうして分かったんですか?」
優一がほっと安堵したような笑みを見せれば、紗紀はお礼と共に疑問を投げかける。
優一は思い出したように、左手の平に右手の拳をポンと乗せた。
「そうそう、ついさっき装置のアップデートが完了したんだよ。新たに妖が集まっている神社のお知らせ通知が表示されるようになったんだ」
「え!……凄い……!それはまた、便利ですね」
「ね。それでここに妖が集まっているのが分かって……」
優一がそう説明をしている途中で、ドサリと物が落ちるような音がした。
そちらへと視線を向ければ、そこには膝をつき苦しむ七曲の姿があった。
息は荒く、苦しいのか胸倉を掴んでいた。
「ぐっ……はぁ、はぁ……うぅっ……」
「……七曲、さん?」
名前を呼ぶけれど、それどころでは無さそうだ。
バサッと翼の羽ばたく音が耳に届く。
そちらを見上げればやはり白狼の姿があった。
「アッハハハ!!ホントーに飲んだんだな、オマエ。バカでマヌケで……なんて哀れなんだ。カワイソウに」
「……白狼!!何を、したの?七曲さんに何をしたの!?」
状況が飲み込めず紗紀は声を荒げる。
不安でいっぱいだった。
白狼はゆっくりと紗紀の目の前へ降り立つ。
「何を……?俺様はアイツの願いを叶えてやったんだよ」
「願い?」
「力が欲しいって、アイツはそう言ったんだ。だからくれてやったんだよ。ほら、まるで別人みてーだろ?」
七曲の体をからあの黒い手足がブワッと生えた。
ゾワリと恐怖で背筋が粟立つ。
「こ、れは……!!」
ついさっき倒したばかりの怪物を思い出す。
(嘘だ。こんな……!!)
「七曲さんっ……!!」
名前を呼ぶけれどこちらを見た七曲の目は普段とはまるで違う。
顔には青い血管が浮き出ていて白目が充血している。
「ゔっ……ヴォアアアア!!!」
七曲の体から生えた手がこちらへと伸びて来た。
「九重さん!雪音さんを安全な場所に……キャッ!?」
言ってる側から伸びて来た腕が紗紀を捕まえる。
その力は異常に強くミシミシと紗紀の体を締め付けた。
「ぐっ……ああっ!!」
「紗紀!!」
ミタマが駆け寄りその腕に狐火を焚きつけようとしたその時、紗紀が制止の声を上げる。
「待っ、て……!!」
「なっ!?」
まさかの声にミタマは混乱する。
自分の身が危険だと言うのに、それでも待てと言う紗紀の気持ちがまるで汲み取れない。
黒い腕はぐんと紗紀を握りしめたまま七曲の元へと引き寄せた。
「なな……まがり……さ……」
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