～巻き込まれ少女は妖怪と暮らす～【天命のまにまに。】

第十一話：七曲。

17七曲。

「くッ！！邪魔だよ！！……紗紀！！」


転ぶ紗紀にたくさんの手が伸びてくる。

そんな状況にも関わらず紗紀の視線には、真っ黒な塊の大きく開かれた口に、雪音が飲み込まれようとしている姿が映っていた。


（誰か……！！）


「嫌だ！！雪音さんっ！！雪音さん！！雪音さん！！雪音さん！！」


手を伸ばし叫ぶけれど、そんなもの何の意味もなさない。

雪音と目が合う。

辛そうに歪ゆがんだ眉に、けれど口元が笑みの形を作る。

その瞬間、神々しいまでの光が拝殿から溢あふれ出した。

あまりの眩まぶしさに目を開けていられない。

光が落ち着いたと思うと目の前で真っ黒い飛沫しぶきが上がった。

雪音をがんじがらめにしたその腕を、猫耳をつけた青年が切り裂さく姿が見えた。

落ちる雪音を九重が受け止める。

紗紀はホッと息を吐き出した。

そしてようやく自分の身の危険を思い出す。

目と鼻の先にまで迫っていた新たな黒い腕。


「ひっ！！」


目を見開いた瞬間、影が落ちて来たのが分かる。

気付けば真っ暗闇の中に居た。

紗紀はそれを知っていた。

いつの間にか足首を掴んでいた手は消えている。

紗紀は起き上がると壁にぶつかるまで歩き続けた。

とん、と手が触れる。

壁だ。


「……七曲、さん？」

『そうだよ』

「助けに来てくれたの？」

『……遅くなって、ごめんね』

「……ううん。ありがとう」


七曲が来てくれた。

それだけで何だか嬉しくて涙が込み上げる。

紗紀は顔を拭ぬぐうとその壁を撫なでた。


「七曲さん。大丈夫です。戦えます。私、この神社の主だから」

『分かってるよ。けどね、優一が今みんなをここに囲うように指示をしたんだ。だから少し待って』

「え？」


（あの猫耳はやっぱり彼だったんだ。助けに、来てくれた？）


彼が来なかったら雪音はきっと今頃あの怪物に食べられていたに違いない。

そう思うとゾッとした。

紗紀が体を震わせて居ると、トンと何かがぶつかったのが分かる。


「あれ、紗紀？」

「ミタマさん！」

「ここは……七曲の中かい？」


紗紀は慌てて顔を擦こすって何度も頷うなずく。


「七曲さんと……後、優一さんも！来てくれて……」

「……そう」


泣いていたのだと察したミタマは何も言わずに紗紀の頭を撫でた。

そうしてる間に、雪音に肩を貸す九重達もこちらへ歩いて来ていた。

紗紀は慌てて二人に駆け寄る。


「雪音さん！！大丈夫ですか？」

「ああ、ちっとばかし油断しちまった。……我ながら情けないったらありゃしないよ」

「良かった……生きてて」


再び涙が溢れそうになった。

目頭めがしらを拭ぬぐって、反対側から雪音を支える。


（みんな無事だ）


問題は外に居る優一、それに彼の狛犬と……七曲だ。