150 / 368
第十一話:七曲。
15七曲。
しおりを挟むミタマは七曲の目の前に腰を下ろすと正座した。
紗紀は慌てて二人の傍へと駆け寄る。
「七曲、みんなが心配してる。何があったんだい?」
真摯な目を向けられて、七曲は驚いてしまう。
てっきり殴られると思っていたのだ。
罵声を浴びせられても仕方ないと、忌み嫌われてしまってもそれだけの事をしたと七曲は思っていた。
紗紀はホッと息を吐き出してミタマの隣に座る。
「七曲さん……。私、私もごめんなさい。貴方を傷付けたのかもしれない。何がダメだったのか、どうしたら良かったのか……。ずっと気がかりで。だから教えて欲しい、です」
紗紀は太ももの上に乗せた拳へ視線を落としてから、申し訳無さそうに話した。
紗紀の言葉に七曲は必死に首を左右に振る。
「違う!……違うんだよ。違う……。ボク、は……自分が情けなくて。知られたく無くて……。だから!……怖がらせて……距離を置きたかった……」
七曲は片手で顔を押さえて言葉を紡いだ。
「情けなくなんか、ないです。七曲さんは七曲さんが出来る事をいつだってしてくれてるじゃないですか!……私、私は。この御札が無ければ何も出来ない。力の無いただの人間です」
「……。……紗紀ちゃん」
「七曲さんは例え相手が自分より強いって分かっていても。それでも……私達を護ろうとしてくれた。何度だって助けられてるんです」
紗紀は一生懸命、一生懸命言葉を重ねる。
必要だって伝えたかった。
自分をダメだなんて思って欲しくなかった。
言葉を積み上げられればられる程、七曲は恥ずかしくなって両手で顔を覆う。
「そう、言って貰えるのは嬉しいケド……。足りないんだよ。だって結局護り切れていないんだ。護る事が専売特許なのに。それが出来ないって、攻撃も出来ないのに意味無いじゃん」
どんどん言葉尻がしぼんでいって、口に出すと尚更落ち込んでしまった。
側に居ても護り切れないなら、それは居ないのと一緒だ。
そんな居ても居なくても変わらない存在になりたくない。
お荷物が増えただなんて思われたくない。
護るモノが増えるという事は、つまり弱点が増えるという事だ。
七曲はそう思っていた。
「その気持ち、俺も分かるよ。七曲も知っていると思うけど……。俺が本当は尾が一つなのに九つあるのを知っているでしょ?」
「……」
ミタマが自ら自分の地雷を踏みに行く。
未だに九つ生えている尻尾を見て、七曲は何も返せずに黙り込んだ。
「俺だって本物の九尾狐には敵わないよ。それに引け目を感じていた。けれどキミは、俺が恐れていた相手にすら立ち向かって行っただろう?みんなが九重を恐れて会話出来ない中、率先して話しかけたり。それも一つの強さでは無いのかい?」
「戦闘には不向きだよ」
ミタマに褒められて嬉しくないわけではない。
けれど、七曲が望んでいる強さとはそういうものではない。
「……七曲の気持ちは分かったよ。方法がある……」
―シャン。
ミタマの話の途中で、鈴の音が鳴り響いた。
紗紀は立ち上がる。
(妖だ……!)
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる