147 / 368
第十一話:七曲。
12七曲。
しおりを挟む「……ちょっと、目の前で何してるのじゃ?九重」
驚いた顔をしていた雪音が、厳しい表情をして九重を見下ろした。
けれど九重は気にした様子も無く、紗紀の手に触れた自分の手の平をマジマジと見ていた。
不思議に思う雪音が首を傾げる。
「あ、あの……すみません。手、大丈夫ですか?」
「……なるほど。……だいぶ定着して来たようだな」
妙な間の後に九重は言葉を紡ぐ。
九重を見る紗紀の手の震えは、やっと落ち着き始めた。
「……本当ですか?もうすぐ、ですかね。何か目に見える形で分かるといいんですが……」
ホッとして笑う紗紀に、九重はフッと笑うと立ち上がる。
「まぐわえばもっと早いんだろうがな」
「まぐ……?」
「九重。昼間っから馬鹿な事お言いでないよ!」
言葉の意味が分からず小首を捻る紗紀に、雪音はマイナス零度の視線を向ける。
寒さが一層増した。
「手っ取り早い方法を上げたまでだ。効率的だろ?」
「効率的なのは分かるが、年若い娘に面と向かって言う事かえ?」
言い争いになる二人を紗紀は必死に宥める。
「そういうものか。……フン。まあいい。飯の支度が出来たら呼んでくれ」
それだけ言って居間を出る九重の背中を見送った。
「まったくあの男は節操がないのかね」
「あ、あの……雪音さん。まぐわうとはなんですか?」
「……」
言葉の意味を理解していない紗紀を見て、雪音は安堵の息を吐き出す。
「アンタはまだ知らなくても良い。おいおいな。うん、そう、おいおい」
そんな言いづらい事なのだろうか。
益々気になってしまう。
(それにしても……)
またやらかしたと紗紀は自分の手をさする。
過敏になり過ぎている。
このままでは色んな人に迷惑をかけ兼ねない。
分かっているのに、それでも体が恐怖に敏感に反応を示していた。
そう簡単に忘れられる筈がない。
怖かったのだ。
とても。
力強く抵抗出来ない恐怖を身に染みて体験したのだから。
「……強く、なりたいな……」
自分の身すらまともに守れない無力さに落胆する。
そんな紗紀の頭を雪音がぐしゃぐしゃに撫で回した。
「わわっ!?え!!な……っ!?」
「あっはは!アンタは充分強いじゃろう?ここに居るみんなが知ってるよ。だから……力を求め過ぎて沼にハマったらいけないよ。抜け出せなくなるからね」
紗紀の髪を丁寧に整えるとその背をポンと叩いて、雪音も部屋を後にした。
叩かれたその部分から体全身に巡るように温かくなっていく。
不思議だ。
雪音の手は雪女だからか冷え切っていたのに。
◇◆◇
0
お気に入りに追加
33
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる