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第十一話:七曲。

03七曲。

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「ど、どこ行くんですか!?叫びますよ!人呼びますよ!?」

「人目のつかないトコ。……叫ぼうとすんなし。オマエ話しが聞きたいんだろ?大人しく聞いとけや」

「……なんで急に……」


白狼の行動に理解出来ずに首をひねるけれど、答えは返っては来なかった。

けれどこれは彼から話を聞くチャンスだ。


 ◇◆◇


向かった先は庭の隅っこだった。

近くに井戸はない。

ほとんど真っ暗で正直言って怖い。


「井戸端会議じゃ……?」

「バカヤロウ。井戸に行ったら確実にバレるだろ?密会に変更だ!!」


(なんて自由なんだ)


自分から提案しておいて。

紗紀は思わず笑ってしまう。


「何笑ってんだよ。バカにしてんのかオラ?」


紗紀を地面にろしながら軽口を叩く。

すとんと地面に足がつくと紗紀はほっと一息ついた。


「それで何を話してくれるんですか?」


そう疑問符を投げかければ、すっと伸びて来た白狼の指が紗紀の首筋をなぞった。

ビクリと体が震え思わず後退あとずさる。


「なっ……!?」

「それ、狛犬じゃねーのな?」


不思議そうに小首を傾げてみせた白狼は、トントンと自分の首を指して見せた。


「え?」

「赤くなってる。所有印?オマエって何誰とでも遊べんの?」


そう言われてカァッと体に熱が上がるのが分かった。


「違います!!」

「おい、あんま叫ぶな」

「んぐっ!?」


ガッツリ容赦ようしゃ無く口元を手で塞がれて、くぐもった声が出る。

まさか首筋にあとが残っているなど、微塵みじんも思いもせず頭が真っ白になった。


(これはいつ頃消える物なの?)


白狼が一目でミタマでは無い他の誰かの物だと気付くと言う事はきっと、ミタマならばもっと早く気付いてしまうのだろう。

マズイなと真剣に思う。

このままじゃケンカくらいで済めばいいけれど大ごとになりそうで目眩めまいがした。


「……オマエってさ。すきが有り過ぎじゃね?」

「っぷはぁ……ゲホッゲホッ!」

「オイオイ大袈裟だな。大丈夫か?」


やっと解放されて酸素を運べば、変な咳が出た。

そんな紗紀を少しばかり心配して見せる白狼。

紗紀はその場にうずくまる。


「オイオイ。どーした?ん?貧血か?」


白狼は紗紀と目線が合うようにその場にしゃがむとそう聞いた。


「はぁ……誰のせいだと」

「俺様か!?本当ニンゲンってのは貧弱ひんじゃくだな。……それにしてもこんな小娘お使いに寄越すって、オマエんとこのニンゲンはよっぽど切羽詰まってんだな」


(お使いって……)


「まぁ、そうですよね。私達もどうして選ばれたのか不思議だったんです。白狼の話し聞いて納得しましたけど」


そりゃあ、未知の世界に使える人間を送り出したくはないだろう、とそう思う。

どうせなら消えても問題無い、騒ぎにならない相手を選ぶのも当たり前のように思えた。


「……つーかその敬語やめね?普通に話していいぜ?」

「そうは言われても……」

「気持ち悪ィーんだよ。ほら、寒イボ出来てんだろ?」


そう言って見せられた腕を、触ってみろとうながされた。

確かにブツブツしている。

突然敬語をやめろと言われても困ってしまう。

きっとだいぶ年上だろうに。

そう悩みつつも、そう言えば、と聞きたい事が頭に浮かんだ。


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