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第十一話:七曲。
01七曲。
しおりを挟むあれから数日、妖怪も怪物も現れなかった。
七曲は食事にも姿を現さず部屋にこもりきりだ。
体調が悪いのだと雪音はそう言っていた。
紗紀を心配させない為だろうか。
今は一人にした方がいい言われていたからそっとしてみたけれど、やっぱり心配だ。
少し様子を見にと彼の部屋へ足を運んでみる事にした。
「七曲さーん?ちょっとお話し出来ませんか?入ってもいい?」
障子の前で声をかければ、カタリとゆっくり障子が開いた。
夕焼け空はほとんど夜空に様変わりしている。
そんな薄暗い中、明かりも灯さずに体調を崩して眠っていたのだろうか。
「……七曲さん?」
「紗紀ちゃん。……どうしたの?」
「それは……こっちのセリフですよ。体調悪いんですよね?大丈夫ですか?」
紗紀を見る七曲は一瞬どこか後ろめたそうに視線を#逸__そ_#らすと、次にはいつも通りの笑顔を向けた。
紗紀は心配そうにそんな彼を気遣う。
真っ直ぐな瞳で心配され、居たたまれない気持ちになった。
「……体調……、少しね」
紗紀は手を伸ばし七曲の額に触れた。
「熱っぽいですか?……温かい」
「……。……そうかも。移るといけないから紗紀ちゃんは部屋に戻って」
早々に閉め出そうとする七曲。
熱のせいなのか、やはりどこかいつもの彼らしくない。
目に見えて元気が無いように思う。
「あの。もしかして、ですけど……木葉天狗との戦いの時の事、気にしてたりしますか?」
木葉天狗である白狼の操る風から守るべく、体を張った七曲だったが、数分程しか食い止める事が出来なかった。
みんなを囲う術を解く時に、謝られた事を紗紀は思い出していた。
自分のせいだと責任を感じているかもしれない、そう思ったのだ。
七曲と目が合う。
その目はいつもの優しげな彼では無かった。
ドクリ、嫌に心臓が騒ぐ。
気付けば腕を掴まれ、七曲の部屋へと連れ込まれた。
障子戸が激しく閉まる音に身が竦む。
その力強い腕と閉められた障子に紗紀は硬直した。
「……七曲さ……」
「バカだなぁ。……ねぇ、こんな時間帯にしかも一人で男の部屋に来るってさぁ、何が起きるか想像出来ないの?」
「……っ」
「……それとも、ボクなら……キミに何もしないってそう思ったぁ?」
七曲は紗紀の頬から首筋へと手の平で触れていく。
ビクリと紗紀の身体が震えた。
(怖い)
元々紗紀は七曲の事が少し苦手であった。
額にある瞳が全てを見透かしそうで、どこに視線を向けたらいいか今だって分からない。
固まって動けずにいると、七曲に首筋をパクリと噛み付かれた。
チクリとした痛みが走り、思わず七曲の頬を打ってしまった。
パシンと静かな室内に乾いた音が響き渡る。
七曲を叩いたその手はガタガタと震えていて、次第にジリジリと熱を持つように痛みだした。
「アハハ。これくらいで怯えないでよ。タマちゃんとはもっと凄いコト、してるんでしょ?」
紗紀は障子を勢いよく開けると、バタバタとその部屋から飛び出していった。
いつもの優しく気遣う彼ではない。
普段と全く様子の違う七曲に、紗紀は混乱していた。
(なんで……?どうして?訳がわからない)
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