上 下
135 / 368
第十話:疑念。

09疑念。

しおりを挟む


「紗紀ちゃん、色々話聞けて良かったよ。こちらこそありがとう、またね!お邪魔しました!」


灯は明るくそう言うと、紗紀をギュッと抱きしめて、妖メンバーに向けてお辞儀をすると、再度白狼を見上げた。


「白狼!あんた、約束守りなさいよ?」

「ああ。でも、オマエらが居る時に見せられるかは話しが別だ。ご主人サマが承認になってくれるだろーから、そっち通して聞きな?」

「何よ!そんな瞬時に無くなるモノなわけ?」


いぶかしげに灯は白狼を見やる。

楓はらちが明かないと判断したのか、灯の腕を掴んで引っ張った。


「あ!ちょっと!何すんのよ!」

「話し長ぇんだよ!状況考えろ馬鹿!」

「はぁ?あんた今なんて言った!?」


楓はペコリと軽く会釈えしゃくをして、拝殿へとぐんぐん進む。


「楓くんもありがとう!」


紗紀がその背に声をかければ軽く手を上げてくれた。

灯が楓と言い合いしてる声が離れて行っても耳に届く。

楓と居る時の灯は無理無く素のままで居られているように思う。


「とりあえず、私達も少し休憩しましょうか。夜もこれからが本番ですし」


夜はまだまだ長い。

朝焼けを迎えるまでは安心出来ない。


「そうだね。体力を温存しておかないと」

「紗紀はご飯もまだじゃろう?しっかり食べて、体力付けな?」

「そういえば……」


心配そうにそう言う雪音に、紗紀は自分のお腹に触れてみる。

思い出すと急にお腹が減ってきた。


「戻ってご飯を食べよう。マミ達がおいなりさんの準備をしてくれているよ」


ミタマが紗紀に笑いかける。

普段通りに、とそう思うのに、勝手に高鳴る心臓に紗紀は思わず視線をそらしてしまった。


「油揚げは好かん」

「んじゃ俺様がお揚げを貰い受ける!」

「好きにしろ」


紗紀達を放置して、おいなりさんから油揚げを剥ぎ取る取引が九重と白狼の中でり行われている。


「好き嫌いするんじゃないよ!まったく、子どもじゃあるまいし」


そこに一括する雪音も加わる。

そんな三匹が居間へと向かう後ろ姿を眺め、ミタマは再び紗紀へと視線を戻した。


「紗紀」


名前を呼ばれて、ビクリと肩が跳ね上がる。


「意識してるのかい?それとも……嫌いになった?」

「き、嫌いになんか……なるわけないじゃないですか……」


どこか寂しい声色で問うミタマに、慌てて否定する。

そんな紗紀にミタマは内心安堵していた。


「そう、それなら良かった」


いつものようににこりと笑う。


「……白狼の言った事、気になるね」

「そうですね」

「何か事を起こす気なのか。気を引き締めた方が良さそうだ」

「はい」


紗紀は手の平を強く握り閉めると、力強く頷き返した。

警戒しておくに越したことは無い。

少し生暖かくなった風が、焦げたような異臭と共に吹き抜けた。

たくさんの怪物の死をまざまざと知らしめるみたいに。

怒りと悲しみが込み上げてくる紗紀の手を、ミタマのひんやりとした手が包んだ。


「ほら、行こう。みんなが待っているよ」


ミタマが歩き出す。

その先には三匹が立ち止まりこちらへ振り返って待っていた。

紗紀もミタマの後を追って歩き出す。


不明瞭ふめいりょな事はたくさんある。

それを一つずつ解き明かして行かねばならない。

未来の為に。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

くろぼし少年スポーツ団

紅葉
ライト文芸
甲子園で選抜高校野球を観戦した幸太は、自分も野球を始めることを決意する。勉強もスポーツも平凡な幸太は、甲子園を夢に見、かつて全国制覇を成したことで有名な地域の少年野球クラブに入る、幸太のチームメイトは親も子も個性的で……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

QA高校ラジオの一刻

upruru
ライト文芸
初めまして。upruruです。初めての小説投稿です。ジャンルは、コメディです。異世界に飛ばされてバトルを繰り広げる事も無ければ、主人公が理由もなく何故か最強キャラという事もありません。登場人物は、ちょっと個性的というだけの普通の人間です。そんな人達が繰り広げる戯れを、友人集団を観察している感覚でお付き合いして頂ければ幸いです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...