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第十話:疑念。
09疑念。
しおりを挟む「紗紀ちゃん、色々話聞けて良かったよ。こちらこそありがとう、またね!お邪魔しました!」
灯は明るくそう言うと、紗紀をギュッと抱きしめて、妖メンバーに向けてお辞儀をすると、再度白狼を見上げた。
「白狼!あんた、約束守りなさいよ?」
「ああ。でも、オマエらが居る時に見せられるかは話しが別だ。ご主人サマが承認になってくれるだろーから、そっち通して聞きな?」
「何よ!そんな瞬時に無くなるモノなわけ?」
訝しげに灯は白狼を見やる。
楓は埒が明かないと判断したのか、灯の腕を掴んで引っ張った。
「あ!ちょっと!何すんのよ!」
「話し長ぇんだよ!状況考えろ馬鹿!」
「はぁ?あんた今なんて言った!?」
楓はペコリと軽く会釈をして、拝殿へとぐんぐん進む。
「楓くんもありがとう!」
紗紀がその背に声をかければ軽く手を上げてくれた。
灯が楓と言い合いしてる声が離れて行っても耳に届く。
楓と居る時の灯は無理無く素のままで居られているように思う。
「とりあえず、私達も少し休憩しましょうか。夜もこれからが本番ですし」
夜はまだまだ長い。
朝焼けを迎えるまでは安心出来ない。
「そうだね。体力を温存しておかないと」
「紗紀はご飯もまだじゃろう?しっかり食べて、体力付けな?」
「そういえば……」
心配そうにそう言う雪音に、紗紀は自分のお腹に触れてみる。
思い出すと急にお腹が減ってきた。
「戻ってご飯を食べよう。マミ達がおいなりさんの準備をしてくれているよ」
ミタマが紗紀に笑いかける。
普段通りに、とそう思うのに、勝手に高鳴る心臓に紗紀は思わず視線を逸してしまった。
「油揚げは好かん」
「んじゃ俺様がお揚げを貰い受ける!」
「好きにしろ」
紗紀達を放置して、おいなりさんから油揚げを剥ぎ取る取引が九重と白狼の中で執り行われている。
「好き嫌いするんじゃないよ!まったく、子どもじゃあるまいし」
そこに一括する雪音も加わる。
そんな三匹が居間へと向かう後ろ姿を眺め、ミタマは再び紗紀へと視線を戻した。
「紗紀」
名前を呼ばれて、ビクリと肩が跳ね上がる。
「意識してるのかい?それとも……嫌いになった?」
「き、嫌いになんか……なるわけないじゃないですか……」
どこか寂しい声色で問うミタマに、慌てて否定する。
そんな紗紀にミタマは内心安堵していた。
「そう、それなら良かった」
いつものようににこりと笑う。
「……白狼の言った事、気になるね」
「そうですね」
「何か事を起こす気なのか。気を引き締めた方が良さそうだ」
「はい」
紗紀は手の平を強く握り閉めると、力強く頷き返した。
警戒しておくに越したことは無い。
少し生暖かくなった風が、焦げたような異臭と共に吹き抜けた。
たくさんの怪物の死をまざまざと知らしめるみたいに。
怒りと悲しみが込み上げてくる紗紀の手を、ミタマのひんやりとした手が包んだ。
「ほら、行こう。みんなが待っているよ」
ミタマが歩き出す。
その先には三匹が立ち止まりこちらへ振り返って待っていた。
紗紀もミタマの後を追って歩き出す。
不明瞭な事はたくさんある。
それを一つずつ解き明かして行かねばならない。
未来の為に。
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