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第九話:木葉天狗

15木葉天狗

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ミタマは残された九重と木葉天狗の白狼はくろうを交互に見やる。


「原因はアレだ」


九重は腕組するとあごで白狼を指し示した。


「紗紀に何をしたんだい?」

「はぁ?別にィ?ホントのコトを教えてやったダケだけど~?」


白狼はミタマと目も合わせずに小指で耳かきをしている。

なかなかふざけた態度だ。


「……打ってもいいかい?」

「加勢はしても止めはしない。好きにしろ」


別に許可を取るつもりで放った言葉では無かったけれど、九重の承諾のお陰か、心置きなく白狼を殴れた。

白狼はなぜか避ける事をせずにその拳を受け身も取らずに受け入れる。

彼は彼なりに紗紀を泣かせてしまった事を少しばかり反省していたのかもしれない。


「痛ってェ……!口の中切れたんだケド!?」

「本気で殴ったからね。で?なんで紗紀は泣いたんだい?事と次第によってはるす」

「……つーか、オマエだって知ってたろ?アイツらが、身内も居ない、居なくなっても損害の無いニンゲンだって、サ?良いように利用されてんだって。つーか、そこは教えずに?美味い事だけ話して、丸め込んだワケだ?アイツ悲しませたのって俺様か?なぁ、違くね?」


白狼の言葉にミタマは息を飲んだ。


 ◇◆◇


部屋に戻った紗紀は障子を慌ただしく閉めると、直様その場にしゃがみ込んだ。

泣くつもりじゃなかったのに、後から後から涙が溢れて止まらない。

紗紀は声を押し殺してただただその場で泣きじゃくった。


(こんなの、最初から分かりきっていたじゃない)


今更、“必要とされていない”事実に直面したからといって、なんだと言うんだ。

そう、自分に言い聞かせる。


(私は一体、自分の人生に何を期待していたんだろう)


ここではあまりに甘やかされて、怖いくらい居心地が良すぎて、きっと何かを勝手に期待してしまっていたんだ。

生まれ落ちた時点で、目に見える落差が他人と自分には存在していたのに。

みんなが当たり前の顔をして貰っていた無償の愛を、紗紀は知らない。

無条件で許されて来た事も、紗紀には許されない事ばかりだった。

高校からその先への進学も、今の彼女にとっては経済的に厳しい。

人よりもせばまっていく道。

選択肢。

ずっと考えないようにして生きていた事が、突然決壊したかのようにあふれ出した。

一体何度このドロドロとした感情に蓋をして、閉じ込めて来ただろう。

もう、我慢の限界だった。

不意に誰かの気配がした。


「紗紀、ちょっといいかい?」


(ミタマさん……)


「……今は、駄目です」


(ミタマさんと今話をしたら、確実に困らせてしまう)


「……話を聞くよ。なんでも話してごらん」

「……」


ミタマは障子しょうじを無理やり開けようとはせず、静かにその場に寄り添った。

そっと、まるで紗紀に触れるように障子戸にゆっくりと触れる。


「……紗紀、泣いてもいいんだよ。弱音吐いたって、甘えたっていい。俺はその為にキミの側に居るんだから」

「……今は、ですよね?」


ミタマは紗紀の言葉の続きが見えて、言葉を飲み込む。


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