113 / 368
第九話:木葉天狗
07木葉天狗
しおりを挟む雪音が言う通りそんな事もあった。
けれど果たしてそれは本当に恋としてなのだろうか。
ただ必要とされたから嬉しかった。
ドキドキしたのだって男性経験が無いだけで、きっと他の人が相手でも同じ様に狼狽えたに違いない。
何より、今は信頼しきっていたミタマに裏切られたような気持ちだ。
優しくしてくれてたのも、必要としてくれていたのも全部全部早くこの仕事を終らせる、それだけの為だったのだから。
そう、自分が思った事を雪音に吐き出せば、雪音はただ静かに紗紀の背を撫でながら相槌を打って聞いてくれた。
「そう思ったっていっそ言ってしまいな?」
(もう一度ミタマさんを傷つけてしまう事になる……)
「ミタマはアンタが話してくれると喜ぶよ」
「……そう、ですかね」
「ミタマは本気でアンタを好いているよ。自信持っていい」
本人であるミタマに言われると疑ってしまうのに、第三者に言われると本当の事のように思えてしまうのはなぜなのだろう。
不思議と紗紀の胸に、すとんとその言葉が降りた。
きっとミタマの信頼が、紗紀の中から消え失せてしまった事が原因に他ならないのだろう。
そしてまた、ミタマがその信頼を取り戻そうと努力している事も紗紀には伝わっていた。
「私、もう一度ミタマさんと向き合ってみます。言いたいこと言って、スッキリしたら……見えてくるものもあるかもしれませんよね」
「ああ」
雪音はそう頷くと優しく微笑んで見せた。
その瞬間、シャンと鳥居の方で鈴の音がした。
紗紀と雪音は顔を見合わせる。
「妖怪……?行きましょう!」
「ああ」
紗紀は狛犬に変化をすると雪音と共に鳥居へと駆け出した。
◇◆◇
鳥居に着くと結界は既に破壊されており、先に到着していた七曲は倒れ込んでいた。
なんとか九重は立っているが服がボロボロな所を見ると怪我を負っているように思う。
「七曲さん、九重さん……!!」
紗紀は彼らの名前を叫ぶ。
バサッと翼の羽ばたく音がした。
鳥居の先にはトンビの様な翼を広げた男性が宙に浮いている。
髪はその翼と同じ鳶色をしていた。
「木葉天狗」
「……ミタマさん」
声の主の方へ振り返ればそこにはミタマが立っていた。
どう見ても木葉天狗は正常に見える。
操られているようには見えなかった。
「へぇ?結構人数居んじゃんココ。ふっはは!なぁんだよそっち側なんかに付いてさぁ。オマエら恥ずかしくねぇの?」
不意にかけられた木葉天狗の声音に、紗紀はどこか聞き覚えがあるように思う。
それに彼の顔もどこか見覚えがあった。
喉元まで出かかっているのに、引っかかって出てこない。
0
お気に入りに追加
33
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる