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第八話:告白。

09告白。

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随分ずいぶん長くお世話になりました。装置も治ったみたいなので自分の神社へ戻るよ」

「えーっ!帰っちゃうの!?こんちゃんも!?」


(こんちゃん……)


まるで狐のようだと紗紀は思う。

マミとこんぴらさんは背丈もそう変わらないからか、同い年の友人のようにも見えた。


「マジかよ……。また来いよな!」


続いてムジナが口をとがらせてそう言う。

いつの間にこんなにも仲良しになったのだろう、と紗紀は優一のコミュ力に驚いていた。

そこにはミタマと九重の姿は無い。


「こっちの台詞せりふじゃよ、まったく。子供らと遊んでくれて助かったよ。またいつでもおいで」


雪音がふっと笑って優一と彼の狛犬にそう声をかけた。


「キミが来てくれたおかげでなんだか面白い事になったよ。アリガト。これからもよろしくね?」


七曲はニコニコ笑うと優一の肩を叩いた。

紗紀と優一は意味が理解できず二人して小首をかしげる。


(何気にこの二人息ピッタリ……。どうするのタマちゃん……)


笑顔の裏でみょうあせりを感じる七曲を他所に、ミタマは部屋で小さなくしゃみをしていた。


「じゃあちょっとお見送りして来ます」

「見送りしてくれるんだ?」

「はい。……私もたくさんお世話になりましたし」

「……そう?」


言うほどの事を何かしてやれただろうかと優一は思う。

けれど紗紀にとっては優一の存在はとてもありがたかった。


 ◇◆◇


「じゃあ、戻るよ。またね」

「ありがとうございました。そちらに何かあったら、こちらも助けに行きます!」


拝殿はいでんで別れを告げる。

紗紀は丁寧に深々と頭を下げた。

優一はその時はよろしく頼むよ、と頷いて光に飲まれて行った。

拝殿前には紗紀一人が立ち尽くしていた。

まるで全部夢だったようにも思う。

優一はその名の通り優しい。

けれど、彼とこの先の人生を想像出来るかと言えば、出会って間もないからなのか難しかった。

ミタマの言う通りただの仲間意識で、そこに恋情はまだ何も芽吹いてはいない。


「紗紀か?」


ふと、名を呼ばれて紗紀は振り返る。

そこには九尾の妖狐、九重が居た。


「あの男は帰ったのか?」

「あ、はい。今さっき」

「……そうか」


九重と話す時は妙に緊張する。

ふいに九重にあごを掴まれた紗紀。

驚き過ぎていつもなら狼狽うろたえるのに、むしろ体が硬直こうちょくして動けなかった。


「あ、あの!?……こ、ここここ九重さん?」

「鶏の鳴き真似か?」

「違います!!」


九重に真顔でそう問われ、思わず顔に熱が上がった紗紀は声を大にしてそう叫んだ。

九重は表情を変えもしないで紗紀の唇に指先で触れる。

びっくりした紗紀の唇は、一文字に固く結ばれた。


「あまり他のモノから妖力を貰うな。せっかく馴染んで来ているんだ。この神社の主ならばしっかりしてくれ。何の為に戦っているんだ?」


遊びじゃないんだと念を押される。

全くその通りだ。


「好きで他の人から妖力をもらったわけじゃありません。不意打ちだったんです」

「……ミタマとやらが、貴様が他から妖力を貰うと言っていたとなげいていたが?」

「……」


紗紀は顔を赤らめてうついた。


「本当に力が馴染んで来てるんですか?」

「ああ。その内あの付喪神つくもがみの力を借りずとも自ら生み出せるようになる」


(本当に……?)


驚く紗紀から手を離す九重。


「あまり嫌ってやるな。落ち込んでいたぞ」

「……。……嫌っては無いです」

「俺には夫婦めおとのようにしか見えなかったがな」


え?と問う紗紀にお前と付喪神の事だ。

と九重は言った。


「な……!……で、ですが。私は人間で……」

「人間とくずの葉……神使である妖狐の子が安倍晴明あべのせいめい。全然おかしな話じゃない」


そう言われて確かにその様な話は聞いたなと思い出す。


(おかしな事じゃない?ミタマさんと、私が……?)


恋心など今まで無縁だった紗紀は改めて考えてみる。

ミタマとの事を……。

その日も妖怪は訪れなかった。

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