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第八話:告白。

07告白。

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「……優一さんはタブレットの記事、見ましたか?」

「……うん。亡くなった者以外にも朝からまた人が一名抜けて、新しい者が二名入っている。一人分の神社の主が足りないね……」

「……情報が更新されたんですね」


(未だに実感が湧かない。本当に人が死んだの?)


ならば大ごとになってしまうんじゃないだろうか。

自分はともかく身内が黙っていないはずだ。

そこまで考えてハッとする。

その頃、紗紀はミタマの出て行った障子を眺めてまた涙していた。


(なぜこんな事になってしまったのか分からない)


和気藹々わきあいあいと楽しかったあの生活がどこか懐かしく感じた。

平凡で良かったのだ。


(普通でありきたりで、それで良かったはずなのに……)


トントン、と障子しょうじの横側をノックされる音がした。


「紗紀さん?」


優一の声だ。

紗紀は慌てて目元をこすって涙をぬぐった。


「……すみません。今は会えません」

「……ペアの子とケンカでもした?」

「……」


黙り込む紗紀に、障子越しょうじごしの優一は心配そうな眼差まなざしをしている。


「……泣いてるの?ごめん。開けさせてもらうよ」

「待っ……」


紗紀が止める前にカラカラと乾いた音を立てて障子が開いた。

優一と目が合う。

止めたはずの涙がまたこぼれた。


「そんなに悲しい事があったの?」


ゆっくり歩いて紗紀の前にかがむと、彼女の顔をのぞき込む優一。

涙を止めようと荒っぽくそでぬぐっていた紗紀の腕を掴んだ。


れてしまうよ」

「……」


うつむく紗紀を優一は力強く抱きめた。

まるで子をあやすかのようにその背中をぽんぽんと優しいリズムで叩く。


「……優一さん……」

「んー?」

「……」

「大丈夫だよ。何とかなる」


それは何に向けて言っているのだろうか。

見透かされてしまっているのだろうか。

紗紀には分からない。

けれど優一の温もりはとても安心した。

小さい頃を思い出す。

こんな風にあやされたのは何年振りだろう。


「泣き止んだ?……少し外の空気を吸おうよ。ね?」

「……はい」


何だか急に泣き顔を見られた事が恥ずかしくなって来た。


 ◇◆◇


二人で庭を歩き、あの隅に置いてある木の椅子に並んで腰掛ける。


「不安に思う事は俺にもたくさんあるよ」

「……」

「今の環境が変わって欲しくないだとか、けれど戦いはもうウンザリだ、とか」

「優一さん……」


優一は紗紀に視線を向けるとにっこりとほがらかな笑顔を向けた。

大丈夫だ、そう思わせる力。

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