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第七話:救援に来た男。
02救援に来た男。
しおりを挟む目が覚めるともう見慣れてしまった部屋があった。
体が重い。
重くて重くて動けそうに無い。
もう一度、瞼を閉じようとすれば声がかかった。
「紗紀、起きたのかい?」
その聞き慣れた声に安心する。
目だけを向けてゆっくりと瞬きをした。
そこには真っ白な艶のある髪をした狛犬のミタマが居た。
いつもなら触れてくるミタマが触れて来ない。
「体、重いかい?」
ミタマの問いかけに紗紀は頷く。
この様子だと妖力が切れたのだろう。
そう紗紀は悟る。
けれど変だ。
いつもならミタマから有無言わさずに妖力を与えて来るのに、当のミタマは座ったまま動こうとはしない。
「今日はこのまま眠っていたらいい。後でマミにお粥を持たせるよ」
ミタマはそう言うと、そのまま部屋を出て行ってしまった。
それがなんだかとても寂しくて、不安になる。
けれども重たい体に抗えず、紗紀は深い深い眠りに落ちた。
◇◆◇
「紗紀ちゃん、目、覚めたんだ?」
「ああ」
七曲の問いにミタマはただ頷く。
「それにしては起きて来ねぇじゃん!」
「お腹空いたのー」
噛みつくように声を上げるムジナに、お腹をさすりながら自分の事しか考えないカイリ。
台所には雪女の雪音と、化け狸のマミが並んで立っていてどうやらご飯を作っているようだった。
どこかぼんやりしているミタマの袖を掴んで、塗壁の七曲が声をかける。
「ちょっと来て」
言われるがままに、重い足取りで七曲の後を追うミタマ。
縁側にまで来ると七曲は腰を下ろした。
その隣にミタマも座る。
ミタマは思い悩んでいた。
「紗紀ちゃん具合でも悪いの?」
「ただの妖力切れだよ」
「じゃあ妖力あげたらいいじゃない?いつも口移ししてるんでしょ?」
へらりと笑う七曲にミタマは眉根を寄せた。
「……俺よりも力のある者の妖力がいいのかもしれない」
「……その方が紗紀ちゃんがもっと強くなって、キミが早く元の神社に戻れるから?」
「……」
黙り込むミタマに図星かよ!とわざとらしいツッコミを入れる。
けれどもミタマはそれをシカトした。
それでいいはずなのだ。
紗紀だってこの争いを一にも二にも早く終わらせて元の世界に帰りたいに違いない。
そしてそれは自分の為でもある。
一刻も早くウカノミタマ様に会いたい。
それなのに、何をこんなにも躊躇をしているのだろう。
「アッハハ!他に好いてるオンナが居るクセに?紗紀ちゃんが他の男に取られるのは面白く無いんだ?……笑っちゃう」
そう言った彼の目は笑っていなくて。
蔑むような目でミタマを見ていた。
「身勝手な感情で振り回すの、やめてやってよ。ボクらとは違う。年端の行かない女の子だよ。ボクらにはこれから先何百年何千年と時があっても、彼女にはせいぜい何十年が精一杯なワケさ。それなのに惑わして、彼女の大切な時間を無碍にするのはやめて」
七曲の言葉に驚く。
まさかそんな正当な意見を口にするとは微塵も思わなかったからだ。
いつも通り茶化して盛り上がって、みんなにある事無い事言いふらすものだとばかり思っていた。
「まぁでも?キミが相手にしてもくれないウカノミタマ様を早々に諦めて、紗紀ちゃんを大切にするって言うならそうだね。話はまた別かな~」
コイツはどこまで知っているのだろう。
ミタマは不快な顔をして七曲を睨め付けた。
けれど彼は全然気にもしない。
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