82 / 368
第六話:九尾狐。
16九尾狐。
しおりを挟む紗紀は懐から筆ペンを取り出した。
「ミタマさんすみません。これ私がそのまま持っていたみたいで」
「……あ。ああ、構わないよ」
ミタマも懐から御札を取り出す。
紗紀はそれを受け取ると筆ペンと共に九尾狐へと差し出した。
「お名前聞いてもよろしいですか?」
「九重」
「……ココノエさん。ここに名前と血印をお願いします」
九重と名乗る九尾狐は、受け取った筆ペンを手に取ると訝しげにそれを見やる。
「して、硯は?」
「蓋を外すとそのまま使えますよ」
「何?」
蓋を外し、マジマジと筆ペンを見つめる九重。
「……文字が書ける、だと……?」
御札に名前を書きながら驚きの声を上げる。
「ビックリだよね。それにしてもえらい美人サンだねぇ」
七曲が九重を見て感嘆の声を漏らせば、ギロリと睨まれた。
「不快だったらごめんねぇ」
それに対し素直に謝罪する七曲。
普通なら悲鳴をあげて怯えそうなほど凍てついた視線を向けられたにも関わらず、動じない所はさすがだ。
見た目の件で色々言われる事が多かったのかもしれない、と七曲は彼なりに反省していた。
九重の整った顔立ちはどこか女性めいても見える。
それはもう、九重が発する言葉遣いとは真逆のような顔立ちをしていた。
きつね色をした髪に飴色の瞳がとても綺麗だ。
右目の下に大きなほくろと小さなほくろが縦に慣れんでいるのが印象的だった。
「あ!ボクは塗壁の七曲。こっちは雪女の雪音姐さん。よろしくね~」
「アンタ、力も無いクセに良くそう軽口を叩けるね」
「姐さん酷い~。そりゃあボクは防御専門だけど。みんなと仲良くなりたいじゃない?」
七曲の言葉に紗紀は笑顔を浮かべた。
「そうですね!」
みんなで仲良く。
それが出来たらそれが一番いい。
そう思ったのも束の間、変化が解けて紗紀の視界が真っ暗になった。
感覚がおかしい。
「紗紀……!!」
ふ、と力が抜けたかと思えば紗紀はグラリと九重の方へと倒れ込んだ。
そんな彼女を抱きとめる九尾狐。
「……こやつはどうしたんだ?」
「……妖力切れだよ。彼女を寝室へ運ぶ」
ミタマが手を伸ばすけれど、言葉を聞くや否や九重がヒョイと紗紀を抱き上げた。
「寝室へ案内しろ」
そう促されて行き場の無くなったその手を引っ込める。
何かを言いかけてやめたミタマはこっちだよと指をさしてから先頭を歩き始めた。
「なぁ、七よ。ミタマは紗紀を好いておるのかえ?」
雪音の言葉に七曲は首を捻る。
「どうだろうねぇ。あの狛犬は頭が固いからね~」
七曲は知っている。
ミタマには紗紀よりも特別な存在が在る事を。
けれど、紗紀とミタマはどことなくお似合いだと思ってしまう気持ちもある。
それに最近ミタマは紗紀をとても大切に扱っているように感じていた。
◇◆◇
0
お気に入りに追加
33
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる