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第六話:九尾狐。
14九尾狐。
しおりを挟む不意にずっと黙り込んでいたミタマが口を開いた。
彼は相変わらず紗紀の着物を掴んでいる。
「結界、張らなくて大丈夫なんですか?」
「張ったところでここ最近はそれを打ち壊す妖怪ばかりが出現しているし」
確かにその通りだ。
結界を張ってもまた壊されるに違いない。
それに結界を張りさえしなければこの九尾狐の妖怪は使役をせずともここに居られる。
「まだ嫌だとは言っていないが?」
「え?」
まさかの九尾狐の返答にみんながパチパチと驚いたように瞬きを繰り返した。
(それはつまり、どう言う事?使役されても良いと言っているのかな?)
「安倍晴明も十二天将を使役していたからな。力のある者に下るのは致し方ない。問題はお前にその力があるか、だ」
(十二天将、以前ミタマさんも言ってたっけ?……家事とかさせてたって)
紗紀はふと思い出す。
(とりあえず、九尾狐さんに力を認めて貰えればいいって事だよね?)
「……待ちなよ」
そんな紗紀の代わりに止めに入ったのはミタマだった。
俯いたまま顔さえ見せなかったミタマが九尾狐と睨み合っている。
「決めるのはこの娘だ。そうだな、条件を付けよう。その娘が俺に擦り傷でも負わせることが出来たなら使役されてやってもいい」
「……本当ですか?」
「紗紀!!」
九尾狐の出した条件に何故だかそれくらいならば余裕な気がしてしまった。
そんな紗紀の返答にミタマが声を荒げて彼女の肩を掴む。
「やらせてください」
紗紀はミタマと向かい合った。
正直チャンスだと思った。
ミタマに酷い事を言ったこの九尾狐に一矢報いたい。
そして可能ならば謝って欲しい。
和解して仲良くなれたらもっと良いと紗紀は思っていた。
その凛とした佇まいに強さを感じて、ミタマは狼狽える。
「……分かった。けれど、万が一の時は止めに入るから、それ以上の攻撃はしないで欲しい」
ミタマは紗紀を一瞥した後に九尾狐を見た。
その真剣な眼差しを彼はフン、と鼻で笑う。
「ああ、構わない。弱者をいたぶるのは趣味では無い。では始めよう」
「紗紀、アンタ本当にアイツと戦う気でいるのかえ?」
雪音が心配そうに紗紀を見やる。
紗紀は笑顔で頷いて見せた。
「はい!勝って仲間になってもらいます」
「まさかの勝つ気満々~?」
驚いた声を上げる七曲。
そんな紗紀に周りは一層心配になる。
力は扱えど彼女はただのヒトなのだ。
そしてその力とてミタマから借りている借り物に過ぎない。
そんなミタマが九尾狐に怯えているこの現状で、彼を相手に勝つだなんて誰が想像出来るだろうか。
その上、先程惨敗したばかりである。
「とにかく、無茶は禁止だからね」
ミタマは紗紀に釘をさす。
紗紀は小さく頷いてみせた。
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