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第六話:九尾狐。

12九尾狐。

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「ああ、そうだった。くずの葉はもう死んだのだったな。……それで、次に選ばれた神使しんしが貴様だと?」


紗紀には何の事だかサッパリ分からない。

ミタマを見れば俯いていて、その握り締めた拳がカタカタと震えていた。


(ここは私が何とかしなければ……)


いつもと様子の違うミタマがとても気がかりだ。


「あの、あなたは自分がなぜここに居るのか分かりますか?」

「は?」


急に振られた話題に九尾狐は眉間にしわを寄せる。

逡巡しゅんじゅんした後にハッと我にかえり辺りを見渡した。

見知らぬ場所、おかしな気配に困惑する。


「ここはどこだ?」

「……分からずに来たのですね。どうやって来たかも分かりませんよね?」

「知らない。……ここはどこだと聞いている」

「ここはフェイクの神社です」

「ふぇ……?」


紗紀の言葉に九尾は聞きなれずに首をひねる。


「フェイク、つまり偽物です」

「……何の為に……?」

「今、なぜか操られた妖怪が神社の封印された御札を破ろうとしてるんです。それを阻止する為にこの偽物の神社は作られました」

「……ほう。それで、俺も何者かに操られてここへ参ったと?」

「そうなります」


紗紀は頷く。


「うー……ん…。ありゃりゃ?……ってわっ!!ちょ!姐さん!ユウくんにムっちゃん!?大丈夫!?」


七曲の慌てた声に、そうだったと紗紀は立ち上がる。

癒やしの御札を使ったはいいけれど、みんなの安否あんぴが気になった。


彼らの元へ向かおうとすれば、ツンと引っ張られる感覚がして前に進めない。

振り返ればミタマが紗紀のすそを握って居た。

俯いている彼からはどんな表情をしているのかまでは見て取れない。

けれど、行かないで、とそう言う気持ちはしっかりと伝わって来た。

あちらも心配だけれど、ひとまずその場に座り直す。


「いまいち記憶に無いが。……封印されている妖は天狗では無かったか?葛の葉の子、安倍晴明が封じたとか。しかし、天狗には人の心は操れど、妖怪を操る技量があったか……」


九尾狐は腕組すると、こちらの事はお構いなしに勝手に話を進めていく。


「天狗?」

「ああ、確か……大天狗だったはずだ」


思い出したようにそう言う九尾狐の言葉に、紗紀は思考する。


(大天狗。……ならばやっぱり天狗の仲間が封印を解こうとしているの?)


そういえば以前、封印されているモノが何かミタマに問いかけたが、機密事項きみつじこうのような感じだった事を紗紀は思い出す。

そっとミタマの様子をうかがおうとしたけれど、ミタマは相変わらずうつむいていてどうやらそれどころでは無いらしい。


「あ、あの!……もし、もし良ければ一緒に戦って貰えませんか?」


とりあえず話題を変えておこうと紗紀は九尾狐に問いかけた。


「は?」


あまりに唐突とうとつな頼みごとに、九尾狐はポカンと呆けてまんまるとした目で紗紀を見る。



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