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第六話:九尾狐。

09九尾狐。

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着いた先にはすでに狛犬の姿をした紗紀と雪女の雪音がいた。

二人が対峙たいじしている相手は、まさかの本物の九尾狐きゅうびきつねでミタマの足がピタリと止まる。


「なんでこんな所に突っ立ってるの!?……って、ああ」


追いついた七曲はミタマの視線の先を見て納得する。


「……戦えないなら戻ってなよ。守るモノが増えちゃうと不利だからさ」


七曲はミタマの肩を叩くとまた走り出した。

すると後ろからバタバタと化け狸達が駆け付ける。


「ミタマお兄ちゃん?……どうしたの?」

「……お腹でも痛いのー?」


立ち尽くすミタマにマミが心配そうに声を掛ける。

同じく心配したカイリが自分のお腹を撫でながら聞く。


「つーか、待て待て待て!!九尾狐って!おい!やばいじゃん!!」


紗紀達が戦っている相手を見てムジナがひるんだ声を上げた。

化け狸達全員がそちらを見る。

マミとカイリは尻尾を前に持って来て握り締めると震え出す。

ミタマにもその恐ろしさが良く分かる。

力で敵う相手では無い。

そして遂に結界が破られた。

昨夜、新しくしたばかりだと言うのに物の見事にパリンと割れて消え失せる。


「マミとカイリは部屋に戻って!」


指示を出したのはユウリだった。


「ユ、ユウリとムジナは……!?」


今にも泣き出しそうな声を上げるマミの頭をユウリは優しくポンポンと撫でた。

それに習ってムジナもカイリの頭を撫でる。


「マミはお姉ちゃんだろ?カイリを頼んだよ」

「カイリは男だろ?根性見せてマミをよろしくな!」


ユウリとムジナはそう交互こうごに言うと背を向けた。

そして走り出す。

紗紀達の居る戦場へ。


「ま、待ってよお!!ユウリー!!ムジナー!!」


わんわんと泣き出すマミの手をカイリが握る。


「部屋へ行こう」

「カイリのばかぁ!!お兄ちゃん達が居なくなっても平気なのー!?」

「平気じゃ無いよー。でも、約束したから」


カイリが強くマミの手を握る。

それが余りに強くてマミは驚いた。


「……約束は、絶対」


カイリも泣きたいのを我慢しているのだとさとる。

マミは涙をぬぐってうなずいて見せた。


「うん!……分かった!」


マミとカイリは手を繋いで部屋と戻って行く。

そんな化け狸達をミタマは呆然ぼうぜんと眺めていた。


(どうして、戦いに行ける?)


力の差はどう見たって歴然れきぜんとしている。

勝てる訳が無い。


(そうだ。紗紀だけ連れてあの転移装置で戻れば……)


ふとそんな事が脳裏をよぎる。

けれど視界の先には懸命に皆が戦っていた。


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