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第六話:九尾狐。

02九尾狐。

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目が覚めるとミタマの顔が目の前にあった。

唇に残る温かさに何が起こったのかを目覚めたばかりの脳内で考える紗紀。


(これは、まさか……)


目が合うとミタマは、驚いた顔をした紗紀へ笑顔を見せた。


「おはよう、紗紀」

「み、ミタマさん!?」


思わず叫んでしまい慌てて口を両手でおおう。

耳まで真っ赤にして紗紀は狼狽うろたえた。


「な、何してるんですか……!」

「ああ、妖力不足で目を覚まさないかもと心配してね。目が覚めて良かったよ。ほら、昨夜はバタバタしていて眠る前の妖力補給忘れていたでしょ?」


(それはそうですけれども……!!寝込みを襲うのは駄目だと思う。って前にも言った気がするんだけど……!)


「紗紀が起きてる時だと緊張してるみたいだったからね。次は目覚める前に済ませるとするよ」

「そ、れは……」

「それとも起きてる時の方がいいかい?」


そう言う質問はズルいと思う。

答えに詰まる紗紀を見て、ミタマはクスリとそでで口元を隠して#可笑__おか_#しそうに笑った。

なんだか翻弄ほんろうされてるみたいで恥ずかしいやら馬鹿らしいやら。


「以前も言ったけれど付喪神相手に緊張なんてする必要ないよ」

「……緊張しますよ。……ミタマさんは緊張しないかもしれませんが!」


まるで自分を卑下ひげするような物言いに、紗紀はなぜか苛立いらだちを感じて強く出てしまった。

あ、と我にかえりミタマを見れば、ミタマは驚いたように紗紀を見ていた。

ゆっくりと数回瞬きを繰り返す。

そして口元にそでを当てたまま、うーん?と考え込んだ。


「口付けでの契約は割と良くあるからね。深く考えた事も無かったよ」


ミタマのその言葉は衝撃的だった。


「……よく、あるんですか……」


俯く紗紀を見てミタマは足りてない言葉を付け足す。


「妖になりたての頃はウカノミタマ様から良く妖力を分けて貰っていたけれど……。俺が契約したのは紗紀が初めてだよ?良く聞かされてた話しってだけで、俺が、とは言ってないからね」


全てを見透かされているみたいでなんだかとてつもなく恥ずかしい。

けれどミタマの話に心から安堵したのも本当だった。

紗紀はホッとした自分の胸を押さえて小首を傾げる。


「あ!……でもこの間、紗紀から口付けされそうになった時はさすがにドキリとしたな。いつもはこちらからばかりだったからね。頭突きで終わったけれど」


ミタマが思い出したと左手の平に右の拳を乗せて話せば、紗紀がその場にうずくまった。

鮮明に脳裏のうりを過るあの時の出来事。


(思い出さなくていいのに!!)

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