上 下
66 / 368
第五話:友達と雪女。

16友達と雪女。

しおりを挟む

ミタマは気づいていたのだろう。

紗紀が無理をして気丈に振る舞っているのを。

そして、この神社での主であるゆえにしっかりしなければと気を張っている事も。

自分の提案でみんなを巻き込み責任を感じている事も。

紗紀はミタマの服を強く掴む。けれど泣かないと心に誓った。


「私、まだまだですね」

「そんな事は無いよ。みんな無事だった。そして新しいあやかし使役しえきしたろう?」

「みんなを危険にさらしたら意味なんて無いです」


紗紀の言葉にミタマは彼女の両肩を掴んで紗紀を離した。

そして彼女の両頬を両手の平で挟み込む。


「反省するのは美徳びとくだけれど、深みにはまってはいけないよ。出来た自分も褒めてあげて。出来ない所ばかり指摘してしまっては可哀想だ」


そうミタマに言われて自分が何を出来たのか考えてみる。

うまく回らない頭では思いつかなかった。


「キミが提案して行動に移さなければついえた命ばかりだよ。この敷地に一体何体のあやかしが今住んでると思ってるの?キミが、救ったんだ。それだけは忘れてはいけないよ」


ミタマの言葉に体が震えた。ミタマは相変わらず優しく紗紀の頭を撫でる。


「誰もキミを責めやしないさ。まぁ、責めるような大馬鹿者は俺が追放ついほうするんだけどね。ふふっ」


最後のミタマの発言に微塵みじんも笑えない、と冷や汗を流したのは言うまでもない。

けれどそんな彼の優しさに心から救われた。


(どうして彼はこうも優しくしてくれるのだろう?)


あまりに甘やかしてくれるものだから、居心地が良すぎて怖い。

紗紀はバレないように少しの間だけミタマのすそを握った。


 ◇◆◇


しばらくすると居間いまにみんなが集まって来た。

お風呂上がりなのか血色もいい。

みんなが集まったのを見て紗紀は席を立った。

思い切り頭を下げる。


「皆さん巻き込んでしまって、怖い思いをさせてしまって本当にすみませんでした!!」

「紗紀お姉ちゃん」


紗紀の謝罪にしん、と室内が静まり返った。

驚いた顔をしてみんなが紗紀を見る。


「私、みんなを守れるようにもっと強くなりたい。まだまだ未熟だけど、努力するから!」

「……紗紀ちゃん、顔を上げて?」


口火を切っのは塗壁ぬりかべの七曲だった。

紗紀は恐る恐る顔を上げる。

正直とても怖かった。

下手してら死んでいた。

自分のワガママでここに居た全員が居なくなっていたかもしれない。

もうこうして集まれなかったかもしれない。

誰か一人欠けて居たかもしれない。

みんなに嫌われてしまったかもしれない。


「ボクはボクの意思でここに居るんだよ。キミにしばられ命令を受けて嫌々居るわけじゃない。だからボクに何があってもそれはボクの責任だ。キミが苦しむ事じゃあ無いよ。覚えといて」


みんなが七曲を見る。


わらわも妾の意思で使役しえきされておる。何があっても自己責任じゃ。それに今回の件、あやつられて居たとは言え妾も悪かった。怖い思いをさせちまったね」


今度は雪音が声を上げた。

最初は怯えて居た化け狸達も雪音の言葉に確かにそうだと思い直す。

彼女の意思で襲って来たわけではないのだ。

雪音は傍に居たユウリとムジナの頭を撫でた。


「私、も……紗紀お姉ちゃんが悪いって思ってないよ。助けてくれてありがとう」


マミの言葉で我慢していた涙腺がいよいよ緩んで来る。

紗紀は思わず手で顔を隠した。


「俺たちも、戦う事に対する覚悟が足りてなかった。どこかお遊び気分で……ごめん」


ユウリが申し訳無さそうに頭を下げる。


「オレももっと強くなるから!!一緒に頑張ろうな!姉ちゃん!」

「……ぼくは美味しものたくさん食べて良く寝て大きくなるー」


ムジナが意気込みを語ると次にカイリが眠そうに目を擦りながら目標を口にする。

カイリに対して誰もツッコミは入れなかった。


「……みんな、ありがとう。これからも不束者ふつつかものではりますが、よろしくお願いします!」


紗紀が再び深くお辞儀をする。

するとなぜか拍手が巻き起こった。

思わず顔を上げる。

みんながそれぞれに頷いてくれた。

紗紀は許されたのだと思った。

自分の未熟さも、これからの目標も、ここに居る事も。

そしてついに涙が溢れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶
BL
もっちり、ぽっちゃりなぼく、サリエルは、六歳のときに落馬したんだけど。目が覚めたら、人の横に備考欄が見えるようになった。そんなぼくが、魔族の国でゆるふわっと漂い危機回避する、のほほんハートフルライフ。うーん、記憶喪失というわけではないが、なんか、家族に違和感があるなぁ? わかっている。ここは魔族が住む国で、父上が魔王だってことは。でも、なんかおかしいと思っちゃう。あと、備考欄も、人に言えないやつだよね? ぼくの備考欄には『悪役令嬢の兄(尻拭い)』と書いてあるけど…うん、死にかけるとか殺されかけるとか、いろいろあるけど。まぁいいや。  ぼくに優しくしてくれる超絶美形の長兄、レオンハルト。ちょっと言葉のきつい次兄のラーディン。おそらく悪役令嬢で、ぼくが死にかかっても高らかに笑う妹のディエンヌ。気の弱い異母弟のシュナイツ、という兄弟に囲まれた、もっちりなぼくの悪魔城ライフです。  さらに、従兄弟のマルチェロやマリーベル、ラーディンの護衛のファウスト、優秀な成績ですごいシュナイツのご学友のエドガーという友達も巻き込んでのドタバタ魔王学園乙女ゲームストーリーもあるよ。え? 乙女ゲーム? なにそれ、美味しいの? 第11回BL小説大賞で、アンダルシュノベルズb賞をいただきました。応援していただき、ありがとうございます。完結しましたが、おまけなど、たまに出します。よろしくお願いします。

召喚され救世主じゃないと言われたが、復讐の旅でなぜか身体を狙われている

BL
 ある日、俺は異世界に救世主として召喚された。しかし伝承とは違う性別の俺は投獄され、召喚した国の王に奴隷に落とされかける。  だが、ある1人の兵士に助けられ、俺の人生を狂わせた暴君への復讐を誓った。少しずつ知って行く事実、先代の救世主が俺の家族だったことや人間が他の国にしている事。俺の怒りはあっという間に大きくなって行く。  チートな能力と喧嘩の経験を使いこなしながら旅を始め、その旅の中で出会った人間に恨みがある他種族を仲間にしていく。  仲間を増やしてレッツ復讐!  ………の旅なのに、なんでエロ展開になって俺が総受けになってんだ!? ❇︎=R-18 ※残酷描写を含みます ※男性向けの表現を含みます ※投稿頻度はランダムになります お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

プラトニック添い寝フレンド

天野アンジェラ
ライト文芸
※8/25(金)完結しました※ ※交互視点で話が進みます。スタートは理雄、次が伊月です※ 恋愛にすっかり嫌気がさし、今はボーイズグループの推し活が趣味の鈴鹿伊月(すずか・いつき)、34歳。 伊月の職場の先輩で、若い頃の離婚経験から恋愛を避けて生きてきた大宮理雄(おおみや・りおう)41歳。 ある日二人で飲んでいたら、伊月が「ソフレがほしい」と言い出し、それにうっかり同調してしまった理雄は伊月のソフレになる羽目に。 先行きに不安を感じつつもとりあえずソフレ関係を始めてみるが――? (表紙イラスト:カザキ様)

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

処理中です...