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第三話:化け狸。
03化け狸。
しおりを挟む「キミが誰かを傷つけたくないってそう思う気持ちはとても素晴らしいし、大切だと思う。だけど、自分の身が危険な時は守る為にも使ってね」
ミタマは御札を持つ紗紀の手を包むように握る。
それは懇願でもあった。
紗紀はミタマが居れば大丈夫だ。
そう思っていたけれど、ミタマの言葉に一抹の不安を覚えた。
(そうか、そうだ。いつまでも居るなんて思ってはいけない。頼り切ってはいけない。ミタマさんは確かに強いけれど、もしも何かあった時は私が助けになるように強くならなければ……)
ミタマはなるべく動くなとそう止めるけれど、紗紀は早くもっと強くなりたいと気持ちばかりが急いていった。
「ミタマさん、私強くなりたいです」
「うん。……でも焦りは禁物だよ。身の丈に合わない稽古は身を滅ぼすだけだからね」
ミタマは立ち上がりながらそう言って、紗紀の頭をポンポン撫でた。
まるで気持ちを見透かされたかのようで紗紀は恥ずかしくなった。
「さて、この御札を一回使ってみようか」
「はい!」
待ってましたと言わんばかりに勢いよく立ち上がれば、ミタマはおかしそうに笑った。
ミタマに続いて庭に降り立つ。
とても広い庭は、風がそよそよと心地良い。
随分と日が傾いており、辺り一面をオレンジ色に染め上げていた。
「大切なのは想いの強さと想像。……後は集中力」
「はい」
「そうだね、じゃあ危険度が少なそうな風の御札でいこうか」
「風……」
紗紀は水色の御札だけ手元に残し、後は懐へとしまった。
ミタマが御札を持つ紗紀の腕を掴み、紗紀の後ろに回る。
「腕をまっすぐ伸ばして。そう、上手だね。風はどんな事に使えると思う?」
紗紀は目を閉じて考えてみた。
(風は……強く吹いて物を飛ばしたり、とか。……台風みたいな)
「想像出来た?」
「あ、はい!」
「じゃあ次は言霊だね。『風神よ我が意思に力を急急如律令』」
「風神よ我が意思に力を急急如律令!」
ミタマに教わった通りに言葉を紡ぎ、イメージをすればそよ風だったはずの風が豪風の如く吹き荒れた。
それはまさに紗紀のイメージ通りだった。
「どうだい?」
「本当に……魔法みたい……」
「ふふっ。狐火の稽古が効いたみたいだね。上手」
どこか自慢気にミタマが紗紀の頭を撫でる。
「術の使い方が分かったら後は咄嗟の判断が出来るように、御札一枚一枚どんな術を操れるか想像しておいて。日々の想像力が物を言うからね」
「はい!」
「キミの想像力と発想力、集中力があればなんだって実現出来るよ。忘れないで。さて、俺は夜食の用意をするよ。キミは部屋でもいいから集中出来る場所で御札と向き合ってごらん」
ミタマはそう言って居間へと歩いて行ってしまった。
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