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第一話:選ばれし七名。

11選ばれし七名。

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あれから数分後、ミタマが居間へ戻ると紗紀の姿は無かった。

あんなに衰弱すいじゃくしきっていたのに自ら動いたのかと不思議に思う。

けれど妖怪の気配はまるで無い。

鈴の音もしなかった。

ミタマは紗紀の居場所を気配で探る。

閉じた瞳に映ったのは先程の寝室だった。

ホッとしつつも何かあったのでは、と焦りミタマは走り出した。

紗紀の部屋の障子戸は開け放たれたままで、そのまま勢いで寝室に足を踏み入れる。


「紗紀!」


思わず呼んだ名は大きめな声で、紗紀の体がビクリと震えた。

紗紀は先程ミタマがひざまずいていた場所に座り込んでいた。

近くには桶が置いてある。


「片付けをしていたのかい?」
「……はい。……ごめんなさい」


絞り出したような弱々しい声音で紗紀は謝罪をしながら片付けを進めていく。

その間もミタマへ視線を向ける事は無かった。

ミタマは紗紀の元へ歩み寄り、しゃがみ込むと紗紀の腕を掴んだ。


「後は俺が」

「離して、ください」


しん、と空気が張り詰めた。

紗紀は震えていた。

ミタマはゆっくりとその腕を離す。

どうしてやるのが正解か分からない。

かと言ってなんでもかんでも彼女の指示に従うのは違うと思った。


「片付けは俺がやるから。キミは湯浴みをして少し眠って欲しい」

「私の不始末ですから」


かたくなに譲ろうとしない紗紀。

ミタマは溜め息をつきたくなるのをぐっと堪えた。


「キミの気持ちも分かるけれど、今は一刻も早く調子を取り戻すのが先決だと思う。キミには任務があるでしょ?」


ミタマの言葉に紗紀はピクリと小さく反応を示した。


「これは命令じゃない。俺の願いなんだ。どうか頼むから、今だけでも休んで貰えないかい?」


居住まいを正し、深く頭を下げる。

それはつまり土下座だ。

真横に居るけれど紗紀の視界にはしっかりと見えていた。


紗紀はミタマに会わせる顔が無いのだ。

どんな顔をしたらいいのか頭の整理すら出来ていない。

まだ何も上手く返せそうに無くて、けれどそんなミタマを見てしまうと深く傷付けているのではと思えてならない。


「……分かり、ました」


それだけ絞り出すのが精一杯で、フラつく足元で立ち上がると風呂場を探しに向かう。

ミタマはそんな紗紀を追いかけてそっと肩に触れた。


湯殿ゆどのまで案内をするよ。少し抱えてもいいかい?」

「……お願い、します」


紗紀の答えにホッとしてミタマは紗紀を抱え上げた。

紗紀は驚いたが何も言わなかった。

あえて言うならこれ以上会話が長引くのが億劫おっくうだった。

何より早く一人になりたかった。


「ここだよ。ゆっくりして来て。その間に寝室は綺麗にしておくね。あ、それとも別の部屋がいいかい?部屋数は結構あるんだ。どうする?」

「……さっきの部屋で」

「……うん、分かった。気を付けてね」


カラカラとスライドをして戸を閉める。

ミタマはしばらく動けないでいた。

すると少ししてから戸の向こう側から嗚咽おえつが聞こえ始める。


ミタマは重い足取りで寝室の掃除へと戻った。

何も掛ける言葉が見当たらない。

彼女はまだ年端も行かない、汚れてもいない、純粋無垢なただただ平凡な少女なのだとミタマは認識させられた。


◇◆◇

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