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第一話:選ばれし七名。

10選ばれし七名。

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目を覚ました紗紀は見知らぬ場所に戸惑った。

まばたきを数回繰り返し、ゆっくりと視線を動かして見れば、壁にもたれかかって眠っているミタマの姿が見て取れた。

思わず勢いよく起き上がる。


ズキン、と頭が割れそうに痛んだ。

脳裏をよぎる先ほどの少女の光景。

ぐわんぐわんと視界が揺れて、床に胃の中の物を戻してしまった。


(気持ちが悪い)

「……お目覚めみたいだね」

(息が出来ない。苦しい)


ミタマの声は聞こえるが動悸と吐き気と息切れでそれどころでは無い。

そんな紗紀を見て、ミタマはゆっくりと紗紀の前に座した。

優しくその背をさする。


「呼吸に集中してごらん。吸うよりも吐く方を丁寧に意識して。いいかい?ゆっくりと吐き出して。大丈夫。次は吸ってー。うん、上手だね。もう一回吐いてー。また吸ってー。良い子だね」


それを何度か繰り返すと紗紀の呼吸は整って来た。

ドッと湧き出る汗がまとわり付いて気持ち悪い。

その上先程吐き出した物の匂いでもう一度吐きそうだ。


「湯を沸かすよ。湯浴みをしよう」


そう言って彼女を抱き上げる。

紗紀は浅く呼吸を繰り返すのが精一杯で抵抗しなかった。

紗紀を居間いまへと運びながらミタマは紗紀の初めての戦いを思い返していた。


(そんなに衝撃的だっただろうか?)


ミタマには良く分からなかった。

同じ種族でも無く、むしろ害を成すモノを焼き殺した。

ただそれだけの事だ。

人間だって昔は拷問に死刑等、同じ種族をいとも簡単に殺して、殺し合って、痛め付けていたはずだ。

そんなに不思議な事ではない。

そう思うけれど、あの紗紀の様子を見ると大変な事をしてしまったような気にすらなる。


腕の中で苦しげに目を伏せ呼吸をこなす彼女を見て、彼女から拒絶された苛立ちが消え失せてしまった。

居間に着くと紗紀を椅子に座らせ湯飲みに水を注ぐ。


「ほら、これで口をゆすぎなよ。吐く時はこっちね」


そうして桶を机に置く。紗紀は返事の代わりに小さく頷いた。

ミタマはせっせと湯飲みに水を汲んでは紗紀の目の前に並べた。


「これだけ湯飲みがあれば平気かい?湯を沸かすから少しここで待っていてね。あ、後、水を飲む時はゆっくりだよ」


ずらりとたくさんの水の入った湯飲みがこれでもかと目の前に並び、ツッコミたいがそれどころではない。

ミタマは自分の仕事を成すべく湯を沸かしに風呂場へと向かった。


 ◇◆◇

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